[コメント] キートンの蒸気船(1928/米)
スタント芸の矜持が後世に残るハイライトとしてあることだけは確かなSO-SO作品
ジャッキー・チェンの『プロジェクトA2』でのラストシーン、巨大看板の木枠がジャッキーを通過するというイタダキの元ネタとなった本作での「ファサード通過」シーンは、やはり映画史に脈打つオリジンとしての芸の強度を訴えて感動的である。しかし、そのハイライトはあまりにも印象的であるが、ドラマの線的な構造はさして新奇な趣向など特徴的なものも見当たらないので、作品の評価というよりも、後世に影響を与えたその強烈なアイデアとキートン・プロ最後の作品という面がやけに目立って少々さみしい風采である。後付けのような気もしないではないが、キートン史でいうところ、次作からいわゆる「悪夢のMGM時代」に突入。本作がひとつの時代の区切りとして、また、メディア技術の進展は映画にトーキーを招来し、娯楽が新世紀に胎動しはじめる時期であったことを考えると、本作に良い意味での逸脱が見られない分、何やら失速の萌芽がうかがえ、どこかしら本作に暗い影を落としている。ユナイテッド・アーティスツのチャップリン、パラマウントのロイド。盟友たちが大手の看板を背負って作品作りに精を出すのと同じくしてMGMと契約するキートンであったが、この岐路が彼らの命運を左右するという宿命は、サイレント末期にして最大の叙事詩であった。
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