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[コメント] ジャガーノート(1974/英)

結論。サスペンスはあるが、ドラマはない。洒落た台詞はあるが、血の通ったキャラクターがいない。息詰まる演出はあるが、作品を貫くテーマがない。駄作ではないが、傑作とは言い難い。
田邉 晴彦

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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何しろセットアップが弱い。子供は子供として、中年女は中年女として、老人は老人として。それ以上の深みをもってキャラクター造形(言葉や態度)が為されないため、キャラクターが立たない。よって、乗っている船が爆弾を積んでいる」という切迫した状況にも関わらず、登場人物たちへのシンパシーが沸いてこない。

また、警察官で家族が乗船している彼(警部?)は特に問題。最初は「政府には逆らえない。(家族が死んだとしても))巡りあわせさ」と素っ気ないが、後から「もうだみだ〜。犯人の言うとおりにしてお金はらって〜」とかなり不甲斐ない。いや、不甲斐ないのは人間なのでまったく自然なことではあるのだ。しかし、正味2時間しかない映画の中で、かつこれだけ登場人物が百花繚乱する中で、こんな情緒不安定なキャラクターを登場させるのはストーリーの妨げでしかない。

同じ海洋アドベンチャーと言えば、内容は違えど、傑作『ポセイドン・アドベンチャー』が想起される。同作が開始10分で登場人物たちの個性(信念やバックグラウンド)をさりげない船上の描写で済ませた点は特筆しておきたい。本作は開始10分で「ジャガーノート」からの脅迫電話が鳴るまで、誰の何に関する物語なのか、全く判然としない。これは明らかに脚本のミス。

本作が一番評価されているのは、リチャード・ハリスが引っ張る爆弾解体シーンの緊迫感にあるだろう。たしかに、鋭い眼光、無駄のない状況説明的な台詞、作中のファロンは、職人の定義を絵に描いたような人物で、魅力がある。

「赤を切るか青を切るか」で「犯人の指示とは逆の選択肢をとる」という“ワイヤージレンマ”はその後多数のサスペンスで見受けられるにあたり、本作が後年の作品に与えた影響は大きい。

犯人からの脅迫電話をオフショットにして、現場の警官達の捜索が続いていく様をモンタージュするシークエンスも良い。スリリングで、ストーリーの進行の妨げにもなっていない。

また、“赤の壁”“赤い炎”といった具合に、シーンとシーンの繋ぎ目にさりげなく“赤”のイメージが潜んでいる。視覚的な演出とみてまず間違いないだろう。実に巧みだ。

しかし、やはりこのサスペンス演出ひとつとっても不満が残る。爆弾を作った方と処理する方が旧知の仲であったと最終的に知れるわけだが、作中では会話を通してそれぞれの関係に軽く触れるのみ。二人の関係の描き込みが全くなく、唐突にその事実が知らされるので、「赤か青か」の選択の中で「青だ」と主張する犯人を押し切ってまで 「赤」を選択する主人公の決断が超現実的な何かによってもたらされたものと思えてならない。つまり、説得力というか、緊迫感が薄らいだ感が否めない。

これなら、乗客などの細々したエピソードをすべて排除して、ジャガーノートとファロンの一騎打ちとしてプロットを構築した方がサスペンスとしては盛り上がりをみせたのではなかろうか。個人的にはそう思う。

良くなりそうな要素が多分にあるだけに残念。『ポセイドン・アドベンチャー』ではなくて、こういった作品こそリメイクしたら面白くなるのでは?

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)ぽんしゅう[*]

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