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[コメント] 大列車強盗(1903/米)

ファーストカットは駅の事務室か。執務中の駅員が、いきなり2人のギャングに襲われるという場面から始まる。このショットの画面右に大きな窓があり、窓の向こうに列車が(その中の乗客も)見えるという画面作りに驚かされる。
ゑぎ

 複数の空間を同時に描きたいという強い意志を感じる。駅員が頭を殴られて倒れるさまもいい。この後、列車内に場面を移した後にも、貨物車両を横から撮ったショットで、こゝも右側の開いたドアの向こうに景色が流れるのが見える。あるいは、走る列車の屋根から機関車側にカメラを向けたショットでも画面奥への縦の意識が垣間見えるだろう。それは、後半の追跡と銃撃の場面が、森の中で、わずかワンカットずつで示される部分でも指摘できる。

 また、冒頭の殴られる駅員、機関車の上で叩きのめされて走る汽車から線路へ放り投げられる乗員といった場面の暴力描写の激しさも指摘しておきたい。中でも、乗客たちが線路に降ろされ、全員ホールドアップさせられた場面で、一人だけ逃げようとする乗客が撃たれるショットにはしびれる。固定ロングショットの冷徹な特徴がよく出た演出だ。また、こゝもそうだが、追跡場面なんかでも出て来る大きな硝煙の定着は特殊効果にも見えるが、見世物としての映画を追求する姿勢に感じられる。

 ただし、冒頭で殴られた駅員が少女に助けられる場面の、少女に対する演出と、続くダンスパーティのシーンの造型は演劇臭い(この男女がダンスするショットは、唯一のコメディっぽい場面だが)。それと、ギャング側も追跡する追っ手側も、誰一人キャラクターが描かれない、ヒーローもアンチヒーローもラスボスもまるで見分けがつかないという演出は、人によっては感情移入する人物がいない、といった表現をされるだろう。しかし、だからこそ、ラストのカメラ目線で発砲してくる男のバストショットは一体何なのだろうとより訝しく感じる。たたずまいから悪漢だと思われるが、これは森の中のショットではなく、時空を超越したイメージショットだ。云い換えれば、観客を驚かすことだけを目的とした、プロットとは整合しない見世物としての演出なのだ。この志向も私は良いことだと肯定する。

(評価:★3)

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