[コメント] 白夜(1971/仏=伊)
なのに、手のクローズアップはない。このことも素晴らしい。ほゞバストショットレベルの構図での、手の所作の見せ方だ。ファーストショットは路傍でヒッチハイクをする男性−ジャックの(バストショットでの)手を上げる画面。彼は自宅アトリエで絵を描いている(絵筆を扱う手さばき)。また、彼が度々録音するポータブル・テープレコーダーやそのマイクを扱う手も優雅だ。一方、セーヌ川の橋(ポンヌフ)から飛び降りようとした女性−マルトには、自室でネグリジェを脱ぎ、裸身を鏡(姿見)に映す場面があり、自分の身体を手で優しく触れる場面が強烈に目に焼き付く。あるいは、公園の恋人たち。ハグする女性が彼氏の背や腹を触る。それを見るジャック。
プロット構成としては、夜のポンヌフの場面が4回出て来る。その度に「ポンヌフ」と記された看板が映り、一夜から四夜まで字幕も出る(本作の原題は「ある夢想家の四夜」だ)。全編で私が最も息をのんだ瞬間は、四夜目の、ジャックとマルトの2人がセーヌ河岸を歩く場面。ジャックがマルトに愛を告白し、抱きしめた瞬間にカメラがマルトに切り返す。なんて鮮烈なカッティング。このショットで、ジャックの手がマルトの胸や腹部を愛撫するのは、先の公園の恋人たちの身体を寄せ合う情景に重なるだろう。さらに、2人が入ったカフェのシーンで、テーブル下の2人の脚を映し、ジャックがマルトの腿を触って、その手にマルトが手を重ねる、という演出は、エンディングの切なさを最大限にお膳立てするものだと思う。
尚、冒頭近く(ヒッチハイクの直後に)、ジャックが公園のような、郊外の草原のような場所を歩いていて、でんぐり返りを2回する、という演出や、ジャックの美術学校の同級生(友人には見えない)の、目的の分からない訪問シーンなんかはギャグみたいなものだろう。また、マルトの回想の中で出て来る、下宿人の男とのエレベータを使ったスリリングな会話シーンの演出、あるいは、マルトが母親と行った映画館の場面で、上映されている映画が画面に出てくるけれど、これが非情な犯罪映画らしく、ステレオタイプな断片だが、実に厳しい演出が付けられている、というような部分も、本作のチャームポイントとしてあげておきたい。あと、いわゆるBGMではない、画面の中から発生し、ジャックやマルトにも聞こえている音楽(例えばストリートミュージシャンや遊覧船の中で演奏される音楽)の使い方も実に効果的だと思う(ちょっとブレッソンらしくないが)。
#マルト役はイザベル・ヴェンガルテン。本作後も映画史に残る作品(『ママと娼婦』『ことの次第』『ライオンは今夜死ぬ』)に出演する。
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