リリアン・ギッシュの美しさはここでも光る。 あのスレンダーな体が、強い風に翻弄され、飛ばされたり、蹌踉けたりする様は官能的ですらある。

また、彼女が狂気を表現する際に良く用いる、あの大きな目を剥いて顔を引きつらせ頭を掻きむしる演技は、何度見ても肌寒くなる。 ただ、見えざる敵や散りゆく花での演技ほど、見ている側にインパクトを与えることはなかったように思う。

これは彼女のせいではなく、脚本のせいではないかと思う。 というのも、ストーリーの展開に関して、リリアン・ギッシュ好きの私ですら、何度も首をかしげる所があったからだ。 これがリリアン・ギッシュの素晴らしい演技の効果を減殺しているんではなかろうか。

首をかしげた点について、具体的に例を挙げてみよう。 １．いきなりレティがカマトトキャラになったのにはびっくりした。また安易に結婚したり、良くわからない理由で彼を拒んだりしたのには置いてけぼりをくらった気持ちになった。 ２．なんといってもラストが酷い。彼への愛に目覚めるのはまだ分かるにしても、風まで好きになったというのは唐突にすぎる。ここでも置いてけぼりをくらった気持ちになった。もっともリリアン・ギッシュが背面からライジの首に手を回すところは非常に美しくて好みだ。

ただ、この映画を評価すべき点は少なくない。 特に序盤で出てくる従兄弟の家でのレティと従兄弟の妻の対比は素晴らしく効果的だった。

まず、家族の食事のために大きな包丁で肉を捌く妻と、ぎこちないアイロンがけのレティが映し出される。 しばらくすると、隣の部屋から子供たちが顔を出す。 この場面で、母親が両手を広げて子供を呼び寄せるのだが、その両手は肉を捌いたために血塗れなのだ。 そのため、子供は恐ろしがって、母親の胸に飛び込まず、レティの下へ走る。 次に、従兄弟が帰ってくる。 ここでも妻は両手を広げて彼を迎える。 そして、妻は血塗れの両手を彼の首に回すのだが、抱きかかえることはしない。 滴るほどに血に塗れた手で抱きかかえれば、彼に血が付いてしまうからだ。 もっとも、従兄弟は妻の出迎えをそこそこにあしらい、レティの下へ駆け寄るのである。

ここに私は強い残酷性をみる。 というのも、そもそも妻は家族のために身を汚して肉を捌くなど家事をこなしているわけである。 また、妻は夫を思うが故に彼を抱きかかえないのである。 にもかかわらず、その家族は、血塗れの彼女の下を離れ、家族のために身を汚していない綺麗なレティの下へ走るのだ。

この一連の流れの中の映像的な残酷さとまたこれが意味する残酷さに身が震えるような気持ちがした。

なお、この作品に対して私が下した星三つという評価は、私の期待がそれだけ高かったということを現してもいる。