[コメント] 叫びとささやき(1972/スウェーデン)
映画を見終った人むけのレビューです。
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心理描写に定評があるベルイマンが、女性の心理描写を徹底して描いた作品。過去から現在に至る、コンプレックスや愛憎が錯綜し、息苦しい情念の世界が展開していく。この当時の映画としては画期的と言えるほど赤裸々の性生活の告白や、見つめ合っていくうちに怪しい雰囲気になる姉妹の関係など、描写においてはとんでもなく高度にまとまった作品であるとは言えよう。
しかし、それが分かった上で、この作品は気持ちが悪い。それは、観てるだけで不安になって気が滅入ると言った気分悪さで、ちょっとだけずれたら最高作品になるのだが、微妙なところでホラーのような思いをさせられてしまった…いや、これはホラーというよりは「怪談」と言うべきなのかもしれないな。そもそも怪談というのは怪物を必要としないわけだし、女の情念を前面に出すって、そのまんま怪談だな。
それは物語の重さもそのように作られているのだが、何よりも色彩と音の演出が気持ち悪いというか、苛立たせるものばかりだからなのだろう。目にきつい赤色をそこらかしこに配置し、更に、劇中至るときに“かさかさかさかさ”という音が間断なく聞こえてくる、その音も気持ちが悪い。
それで一番怖いのは、ベルイマン監督はそれを分かっていて敢えてそう言った演出を狙って使っているのだろうとは思えるところかもしれない。
映画というのは一種の快楽装置だと私は思っているが、全く逆の方向に持っていくことも出来る。本作は、現代最高のカメラマンと言われるスヴェン=ニクヴィストの技量を遺憾なく発揮した芸術作品と言えるだろうが、まさに本作の狙いは、不快さと不安を煽ると言った方向性であり、そう言う意味では本当に実験映像的な面白さがここにはある(日本では寺山修司がその方向性を継承しているけど)。それを分かって敢えて作り上げ、しかもそう言うものを商業ベースで作れるベルイマン監督の巧さも感じ取れる。
本作はホラー的要素を強く持つ作品だが、それは本作をアメリカに提供したのがロジャー=コーマンであったと言う事からも分かるだろう(実はアメリカでは結構受けが良かったらしい)。
映像に関わりを持った人には是非観ておいて欲しい作品ではあるが、精神的に安定しているときに限って。と付け加えさせていただこう。
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