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[コメント] カノン(1998/仏)

カルネ』『カノン』、そして『アレックス』(の開始数分)。元馬肉屋三部作。モラル否定ではなく、モラルをモラルだと思っている良識派への挑戦状。ノエの警告のシニカルな事。徹底的にインモラルなアンモラルムービー。 2005年1月8日DVD鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







アレックス』冒頭(逆回しだから巻末か?)のこの糞親父の言葉によれば、このオッサン、結局親近相姦でムショ送りされたそうだ。そして呟く「時は全てを破壊する」。

開始直後にデカイ音と共に出てくる「France」の地図と文字。コレがお前らが今、映画を見ている場所だ。コレが、お前らが生きている世界だ、と、ノエは開始直後に叫ぶ。そして「MORAL」のテロップ。親父は、ギャスパー・ノエと一緒に「誰が決めたのだか分からない」モラルにケンカを売る。

イチイチ神経を逆撫でる様に「バーン」と音を出して切り替わるカット。次々と吐き出される元馬肉売りの腐敗しきった独り言。そして、時々挿入される文字達。確かにコレはラブストーリーだろう。ノエが親近相姦を肯定しているか否かは俺の知った事じゃないから、置いておいて、とにかくコレはラブストーリーだ。

しかし、ラブストーリーの形を借りているだけで、本質はポストモラルムービーに違いない。しかし、「ポスト」だのと格好をつけても、小市民の馬肉売りには何をする事も出来ない。手前の薄汚い心の中でぶつぶつとほざく事しか出来ない。だからロベスピエールが必要なのだ。しかし、ロベスピエールは居ない。居るのはデブの女房と臭いババアとムカつくホモのカフェ主人に、ムカつく元取引先。

ノエがモラルに戦いを挑む為に用意したのは一丁の拳銃と3発の弾と暴言の嵐だ。

この糞親父は、妊婦の腹を蹴り飛ばして胎児を殺し、気に入らない奴はホモ呼ばわりして罵る。その暴力は、ちっぽけな物でしかない。

ノエが戦いに用意したのは、30秒間だけ表示される警告文と言う形を借りた痛烈な皮肉と、愛しすぎる罪だ。ブルジョワドモが気取ってやってる恋愛を通じて、ブルジョワドモの高貴なモラルを否定する。愛、と言う誰しも持ちえる感情を用いて、禁断の愛と言う「モラル」なんて言う物じゃ語れない物を通して、ノエは叫ぶ。

カルネ』は40分間の不安定な狂気がスクリーンにみなぎり、いつこの狂気が暴走するか分からない程の圧倒的な力に満ち溢れていた。作品そのものの衝撃度は『カルネ』の方が遥かに上だ。

ノエは『カノン』で映画を撮る技術がより一層洗練され、完成された作品を生み出した。作品の持っている狂気と迫力と、不安定故の心地よさは、作品として完成してしまったが故に希薄と成っているし、あと10分か15分は削れた気もするが、しかし、根本的な部分で、やはりノエはノエだ。丁寧に丁寧に研がれたナイフの刃が、俺の喉元に押し当てられ、いつ横に動いて俺の喉から血が大量に噴出すか分からない。

しかし、ナイフは鈍い音と共に床に落ち、俺は安堵の溜め息をついて画面を見る。カノンが流れ、緊張は緩和され、一筋の光探しこむ。

そして、このモラルに戦いを挑んだ親父は、上述の通り『アレックス』で語られるのだが、最終的に娘と寝た事でパクられ、全てを失う。一瞬の罪が、全てを破壊する。

モラルに戦いを挑んだ男は、あっけなくモラルの前に敗北する。無残にもパンツ一丁になった糞親父は、不安定に揺れ続ける画面の中で天井を見上げ「時は全てを破壊すると思うんだ」と言う。おいおい、オメー、モラルに戦い挑んで、なんで後悔してるんだよ!!!(爆)

やっぱノエ、最高です(オチ

(評価:★5)

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