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[コメント] 夜(1961/伊)

無機質な都市の風景。病室で医者がベルンハルト・ヴィッキに注射をし、マルチェロ・マストロヤンニジャンヌ・モローが見舞に来る。オフでヘリの音を聞かせ、続いて病室の窓からヘリを見せる。ちょっと『甘い生活』を思い出す。
ゑぎ

 見舞いの帰り、車中で目を合わさないマストロヤンニとモロー。マストロヤンニは作家。彼のサイン会の会場から、モローは一人町へ出て彷徨する。こゝから前半は、圧倒的なモローの歩く映画となる。彼女の歩度がいいのだ。廃墟の門の中に泣く女の子。錆びた門。オフのジェット機の音(こゝは音だけ)。ミケランジェロ・アントニオーニらしい、だだっ広い場所。男たちの喧嘩。小型ロケットを打ち上げる男たち。見物人たち。

 自宅のバスルームのシーンでは、モローは、ちゃんと乳房を見せる。二人で外出し、ナイトクラブで黒人男女のダンス(ストリップティーズ)を見る場面での、手前にマルチェロ、奥にモローを置いたディープフォーカスのショットが強烈だ。

 後半は、ずっと大邸宅での夜のパーティ場面となる。邸は高台にあり、庭には競走馬を囲んでいる客たち。このシーケンスは、ほとんど俯瞰ショットだ。高低のあるロケーションということもあるが、人物が庭を歩くドリーなんかも含めて、人の背丈よりも上から撮っている。邸の階段の下で本を読む女と階段上のモローの切り返しも高低の演出。本を読む女は、モニカ・ヴィッティだ。階上の窓から男たちを見下ろすモローのショットもある。

 庭のジャズカルテット。ピアノの前のモローが、知らない男に誘われて踊り出す場面。だが、すぐに雨が降って来る。凄い土砂降りだ。雨の中、客たちがプールへ入り出すという狂乱の演出。モローは、男に引っ張られて車の中へ。雷鳴。雨が叩きつける車の中のモローと男。笑顔で会話しているが、声は聞こえない。何の光か分からないが、明滅する光が映る。このシーンの画面造型も凄い。

 その頃、マストロヤンニは、ヴィッティの部屋にいる。モロー達が邸に戻って来、モローとヴィッティとの対峙シーンとなる。二人とも同じような、黒い、細い肩紐のワンピースを着ている。二人の女は合わせ鏡なのだ。こゝでもディープフォーカスで、ヴィッティ、モロー、立っているマストロヤンニが、同一フレーム内に収まる。窓を背にしたヴィッティが「刺激的な夜だったわ」と云い、この科白の後、唐突に朝になり、彼女は窓からの光でシルエットに。この処理もカッコいい。

 エピローグ。朝になっても庭で演奏しているジャズカルテット。マストロヤンニとモローが歩く。庭のゴルフ場。バンカーの端に座り、モローがテキストを読む。モローの横顔や胸元が、マルチェロの見た目ショットのアップで挿入される。こゝだけ、画角が変わった印象を受ける。二人のやりとりを映していたカメラが、左へ移動して二人から遠ざかる。このラストの突き放しの表現も、やっぱり抜群にカッコいいと思う。

(評価:★4)

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