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[コメント] ダンサー・イン・ザ・ダーク(2000/英=独=米=オランダ=デンマーク)

私自身よくあるんだ。仕事中によそ事考えて失敗って。「よそ事考えず現実見ろって言うのはわかる。でも、現実が辛いとよそ事考えずにはいられないんだ!でも、それでもいいんじゃないの…?」という話だと思っているので、★5をつけずにはいられない。
agulii

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最初に、このストーリーはいくらなんでも悪趣味すぎ、っていうのは認めます。それだけで嫌悪感を持つ人も多いっていうのも。たぶん、私がこの映画がすきなのは「そんな悪趣味な映画も嫌いじゃないよ」っていうのも大きいですし。

ミュージカルや少女小説によくある、不幸な主人公が「どれだけ現実に辛いことがあっても、空想すると幸せな気分になるし、がんばれるの!」って話(私も昔から大好きでした)特にミュージカルではその「空想」を歌とダンスで表現することが多いです。 この映画はそんなミュージカルに対する、疑問の投げかけでもあり、反論でもあり、肯定でもあると思います。ミュージカルと現実との折り合いのつけ方という意味で。

まず、「どれだけ現実に辛いことがあっても、空想すると幸せな気分になるし、がんばれるの!」なんて少女小説やミュージカルの中だけの話で、そんなことをしてると現実では失敗することが多いです。映画内の工場のシーンのように。

あのシーンはいいです。目も見えないのにあんな危険な仕事させられればすごいプレッシャーだし(説明を受けているところのプレッシャーを受けている表情がいい)現実逃避するのもわかる。 で、この映画はそこで失敗し職を失い、転落していくところから始まります。

こう説明すると、この映画のテーマは「空想していると失敗するから、ちゃんと現実見なきゃだめだよ。ミュージカルなんて空想の中でしかありえないんだよ」ってことなのか? ってなると思うけど、さらに先があるのが、私がこの映画が好きな理由なんですが……。

処刑されるまでの間のミュージカルシーン。見てる側にとっては首を釣られてぶらさがっているシーンは痛ましく思えるけど、処刑される側は一旦吊るされたら(確かああいうのって首が絞まるより先に首の骨が折れて死ぬんだったと思うので)痛みや苦しみは感じないと思います。本人にとって一番辛いのは処刑台を登ることのはずですが、主人公はもち前の空想の力で楽しく明るく乗り越えます。 皮肉なことにも思えますが、「でも、それは彼女にとっては不幸だったのか? むしろ、幸せだったんじゃ?」って疑問も残ります。誰もが辛いと思うはずの処刑台への道を幸せに登れたのならそれってすごいんじゃないの? と。

最後のシーン、顔は隠されているけどもしかたら笑顔で死んでいるのかもしれない。もちろん、笑顔だって保障はありませんが。

というわけで、最終的なテーマは「空想していると失敗するから、ちゃんと現実見なきゃだめだよ。ミュージカルなんて空想の中でしかありえないんだよ」ということを前提にしながら、それでも「空想やミュージカルそのものが人を救うことはできるのか」ということだと思います。「ミュージカルを見て楽しいから、明日からも頑張ろう!」という二次的な救い方ではなく、「ミュージカルは楽しいという思いそのものが救いになるのか」

最後のシーンに彼女が笑顔だとわかる、というシーンがあれば、この映画が出した答えは「YES」だし、映画自体もここまで賛否両論にならなかったと思うんですが、そこは観客に考えてほしかったのかな、と。 私は「YES」だと信じたいので、最後彼女は笑顔で死んだと思うし、映画のストーリーは悲惨でも、彼女の人生が悲惨だとは思いません。むしろ幸せだったと信じています。

生涯物語を提供していく覚悟のある人たちが、このような物語を作ったのは、ものすごく真摯な態度だと感じるので、大好きな映画です。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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