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[コメント] ワイルドバンチ(1969/米)

正義も悪もなく埃と血と脂に塗れてのたうち回る無意味が今日的意味を失わず、むしろ輝いていることは言うまでもない。また、蠍と蟻の咬み合いの開幕に漂う只ならぬ禍々しさ、馬の転倒のスロー描写には涎が出るが、モノクロ静止カットの挿入のタイミングがグダグダになっていくのが象徴するように、演出も意外なほど失速している。「破滅の美学」に感心しない私には演出の焦点の定まらない様相は致命的。
DSCH

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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「美しい死に焦点を当てない」。

その雑味こそが本作の意味とすれば聞こえはいいかもしれないが、同年の「大味演出の傑作」『ウエスタン』を前にすると、もうちょい何とかせえよ、と言いたくなるシーン多数。ケレンに興味がないのか、意識的に排そうとしているのかと思いきや、興味アリアリではないか。奇跡(まぐれ、ゴリ押し)が雑然と積み上げられた力技ばかりが先行する印象。

冒頭で板挟みになる楽隊のシーンとか、もうちょっとうまく使えないのか。これはまさに「ケレン」そのものだが、いい素材を思いついているのに焦点を当てずに散り散りにしてはもったいないではないか。回想シーンの演出も雑。アップカットのタイミングと「間」も意味不明な箇所が多く、感情が読み取れない。音楽も騒然としている割にはどこに情感を見いだせばよいか分からず、中途半端。暴力描写の突き抜け方は認めるが、作り手の「ツボ」に共感できず、ケレン味が適当に放り出される様に没入感が寸断される。

このテーマなら、血なまぐさく、しかし機械的に、無感情の地平を目指していくべきではないのか。後作への暴力描写の影響は認めるし、テーマの先進性もあったのだろうが、基本的に退屈であり、破滅のダンディズムに甚だ懐疑的な私の感覚では微妙にでも「カッコいい」と思わせたら負けである。ケレンは極めるか、徹底的に排するか。どちらかであるべきと思う。ギリギリの★3。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)Sigenoriyuki[*]

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