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[コメント] 不安は魂を食いつくす(1974/独)

雨の夜。アラブ人が溜まっている酒場。白人の初老の女が入ってくる。女は、『シナのルーレット』で管理人のオバサンを演じることになるブリギッテ・ミラ。店の人たちが皆じっと動かずに見る。
ゑぎ

 視線の演出。ほとんど動かない複数人の視線の演出は、この後も度々出て来る。階段に座った清掃婦たちだとか。また、酒場の女主人が、ディバインのような大柄かつグラマラスで面白い。

 ブリギッテ・ミラ、役名エミは、この酒場でモロッコからの移民の男アリ(見るからにアラブ人)と出会い、恋仲になる。これによって引き起こされる周囲の人々(職場、隣人、家族)との軋轢、差別と疎外が描かれる。いろいろと見せ場はあるが、エミの娘の旦那をファスビンダー自身が演じていて、これがメッチャ態度の悪い、嫌な男なのがいい。また、疎外感が強まるにつれて、窓枠やドアのすき間から人物を撮ったカットが増えて来る。あと、エミが、何度かヒトラーやナチ党について懐かしそうに言及する科白があるのが興味深い。

 終盤の展開は、冒頭の酒場の反復でハッピーエンディングかと思わせておいて唐突に二人を突き放してしまう視点の厳しさも私の好み。ディバインみたいな女店主にはベッドシーンがあるのだが(かなりロングショットだが)、ヒロインのエミにはキスシーンさえない、というのは、ちょっと複雑な感覚も持つ。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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