[コメント] 空軍大戦略(1969/英)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
あの映画との接点としてはまず、基地に犬が居る(笑)。また、天国のような白い雲の上で展開する空中戦や、ロンドン市民が、戦闘機の飛ぶ上空を見上げている場面など、画的な接点も幾つか見出せる。
さすがに本作は映像技術の時代的な制約もあって、戦闘シーンの迫力では一歩か二歩譲るけれど、題材が史実である事と、映画の中でも戦闘員以外の一般人が暮らす都市・ロンドンが炎に包まれる光景によって、この戦争が「ごっこ」ではない事を露わにする。夜、激しい爆撃を受けたロンドンは、まるで噴火した火山からマグマが流れる様を見るような、炎の赤々とした輝きに包まれ、その街並みは見る影も無い。その炎の照り返しを受けて、闇の中から機体を真っ赤に浮かび上がらせる爆撃機。
だが、敵側のナチス・ドイツもステレオタイプな絶対悪としては描かれておらず、その辺りのバランス感覚は評価したい。上述した爆撃の前段であるヒトラーの演説シーンなどは、彼の、少なくとも国内では発揮されていたカリスマ性をも感じとれる。
人物の心情や、歴史的背景が立体的に浮き彫りにされるような脚本的結構に乏しく、その意味では薄味な作品ではあるが、戦闘機が魅力的に描かれているという点では、満点とまでは言えないものの、ほぼ満足のいく内容。海面スレスレを、煙の帯を引きながら滑空するプロペラ機。青空に、絵筆で描いたような白い飛行機雲の線が引かれたショット。機体の窓ガラスを、噴き出した真っ黒なガソリンが覆っていく悪夢的な場面。広々とした平坦な地上の基地から立ち昇る、夥しい黒煙。戦闘機パイロットの視界を眩ませる太陽の光は、戦場としての緊迫感に加えて、その極端な「高さ」の表現ともなり得ている。
随所に見られる、ちょっとしたユーモアも良い。戦闘がより激しくなる終盤で特にそれが際立つのも、実際の戦争でも意外とそんなものなのかも知れない。
惜しむらくは、音楽の凡庸さ。本作を名作と呼びたくても呼び得ないその原因の三分の一ほどは、音楽の単調で大仰な古臭さにある。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。