[コメント] ボディ・ダブル(1984/米)
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映像テクニックを駆使し、日常の延長線上のちょっとした出来事を劇化させ、映画として成立させる。この点において、この巨匠の右に出るものはおそらくいないだろう。この点の一例としては、例えば、「殺しのドレス」における美術館の長回しシーンがあげられる。不倫願望のある熟女が美術館で観覧していくうちに偶然出会う男性に惹かれていき美術館という静寂ムードの中で抑えきれない情欲と葛藤するというまあたわいもない出来事を一つの映像芸術作品として美しく仕上げていく。これこそはまさに巨匠といわれる所以であり、職人芸当である。そこに私は、この巨匠の凄さを感じる。
本作の前半部分のほとんどもまた、冴えないおっさんが、女の後をスケベ心でつけまわすというたわいもないシーンである。ただのストーカーである。ここで、如何にも怪しげな男(後の犯人)もまたその女の後をつけまわす。これにより、一応、サスペンスとしての体裁は保っているかのようである。とはいうものの、この男の存在は、「殺しのドレス」のように、繰り返し見た時にあぁここにもいたんだなというウォーリーを探せ程度の存在にとどまり、何ら緊迫感を感じさせず、サスペンスとしての盛り上がりがない。一方で、この冴えない主人公は、彼女が下着ショップで、下着を試着室で着替えるところをガラス壁ごしからスケベ心の一心で覗き見するのである。余りにも情けないシーンである。そして、下着ショップの店員が彼を不審者として警備員に通報し、警備員が覗く彼に近づく。そこで覗きが警備員にバレてしまうという緊迫感。こういうたわいもないところでゾクゾクさせるのである。覗きだけではない。彼は、彼女が、試着室で脱いだパンツをゴミ箱に捨てたところを見るや、ゴミ箱からそのパンツを躊躇しつつ、焦りながらも、すきを見て拾いすぐさまポケットにしまうのである。彼女は一寸先にいるにもかかわらず、である。そこにニヤリ顔のような余裕さも見せない。必死である。欲望丸出しである。性欲丸出しの中学生のようである。しかしこのシーンにおいても彼女にばれてしまうのではないかという緊迫感が伝わってくる。これは中学生の頃に経験した、コンビニでエロ本を買いたいという性的衝動とレジに持っていくのが恥ずかしいというはじらいの抵抗とのジレンマを思い出す。そしてこの経験故、そのシーンに緊迫感がゾクゾクと伝わってくるのである。このように、本作においてもまた、この破廉恥なおっさんのショッピングモールでのたわいもない出来事を映像作品として美しくはないが緊迫感を持続させて魅了させている。この点においても本作を通じて巨匠の凄さを感じるのである。そして、主人公がこの女を覗き見して悦に浸っているのと同様に、私もまた、この主人公を覗き見してニヤニヤと悦に浸らしてくれるのである。
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