[コメント] ハードエイト(1996/米)
寡聞にして知らなかったが、初長編監督作でこれだけ目立つ引用をしているということは、矢張り『荒野の決闘』ファンだったのだろう。ジョン・フォード・オマージュなのだろう。
さて、本作も実に面白い、全編に亘って端然たる画面を繰り出し続ける作品だ。ゆったりとしたドリーの寄り引き、こゝぞという場面(例えば混乱や衝突の感情が立ち上がる場面)での手持ち撮影、あるいは、ステディカムを使った長回しの移動撮影など、画面造型の選択についても間然するところのないものだと感じさせる。
しかし、特筆すべきは、何と云っても冒頭シーンだ。この監督の「最初の最初」の何という映画性。それは、ロードサイドのコーヒーショップの全景が映り、大型トラックが画面を左から右へ横切ると、画面右端に男の背部が映って、彼が歩くのに合わせて画面が前進移動する、すると店のドアの横にジョン・C・ライリーがうずくまっていて、背中しか映っていない男がライリーに話しかける、このファーストカットを指しているのではない(これも見事な演出だと思うが)。私が特筆したいのは、2カット目以降、店内で向かい合ったベイカー・ホールとライリーの切り返しだ。ホールはほゞ正面カメラ目線、ライリーはイマジナリーラインを意識して、微妙に画面左方向を見ている。これが会話が進むうちに、徐々にホールも視線が正面から少しずつズレて来る。なんてスリリングな会話シーン。
以降もラストまで演出の強さと端正さのレベルは落ちない。あゝこの監督は、初めっから出来上がっていたのだな、と感じせるものだ。脇役のキャラ造型、サミュエル・L・ジャクソンの使い方も、ピンポイントの出番だがフィリップ・シーモア・ホフマンの活用も鮮やかだ。ホフマンのショットはほゞ仰角で、『博士の異常な愛情』のスターリング・ヘイドンみたい、と云うとちょっと大げさかも知れないが、狂気を含んだディレクションになっているのがいい。
ただし、実を云うと、私としては、冒頭がべらぼうに良かっただけに、以降のシーンで、それを越える画面、演出をずっと期待しながら見ることになってしまった。そういう意味での不満は感じる。クライマックスの強度はもっとあっても良かったかも知れない。そういう塩梅は、まだ出来上がっていない、と云うこともできるかも知れない。もっとも、この銃撃シーンのあっけなさ、何の躊躇もない射殺の演出はシーゲルなんかを想起させるもので、これも私の好みではあるが。
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