[コメント] 御誂治郎吉格子(1931/日)
日本映画の至宝。本邦サイレント末期の製作(『マダムと女房』と同年の製作)で、もうこの時代になると、寄りのショットが多い。というか、バストショットとアップが非常に効果的に使われる。
サイレント期の世界的流行であり、「伊藤話術」の粋でもある、ディゾルブによるカット繋ぎが多用されており、私はこの繋ぎ、抒情的で大好きだ。船の中の人々をパンニングで見せながら、ディゾルブで伏見直江のバストショットを繋ぐ等。
冒頭の、三十石船の中で暴れまわる大河内伝次郎のシーンが凄い。こゝのカメラワークが驚異的でまず観客を引き込む。猿回しの猿が挿入される繋ぎにも瞠目する。クライマックスの、沢山の御用提灯が行き来し蠢く、スペクタクルが白眉だとは思うが、この三十石船での立ち回り以外にも、伏見直江が法善寺で、お百度参りをする場面で、線香の煙の中、人々が画面の中を動き回る、濃密な画面造型も特筆すべきだろう。また、伏見直江の兄、高勢実乗の二階の部屋を舞台として、一階からの階段、二階の天井を使った仰角俯瞰の画面造型にも唸る。
さて、伏見直江は二日月(ふつかづき)。伏見信子は満月。対照的な月が象徴する。そのいずれも、大河内と一緒に月を見上げる場面があるのだが、月の画面は繋がれない。視線の演出のみで表現されるのだ。だが、ラストカットは満月のショットなのだ。この月の扱いもカッコいい!
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