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[コメント] 御誂治郎吉格子(1931/日)

特高への批判を込めて描かれた義賊の物語。「御誂」とは検閲への皮肉らしく、このとき伊藤大輔大河内伝次郎の名コンビこそが正に義賊だった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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冒頭、三十石船の混乱振りのユーモラスな描写からして素晴らしい。猿のバク転など麗しいなか大河内伝次郎のチャンバラが始まるがこれがいい。動きまくる大河内を同じサイズでフレームの中心で捉え続けるのだ。主役も周りも動きまくるすごいチャンバラなのだが中心線はブレない。こんな殺陣は初めて観た。画期的だろう。 ビデオについている松田春翠の活弁は名調子。五十三次の画がパラパラ捲られ「水は流れて大坂へ」。伏見直江が映ると「小股の切れ上がったいい女」。大河内伝次郎とふたりになると「三日月の晩にできると腐れ縁って云うぜ」。

女衒の婆さんの迫力もすごいが高勢実乗もすごい。サイレント期は悪役専門なんだ。天王寺裏のお歯黒長屋、伏見信子(直江の実の妹)のお父つぁんはかつて大河内の鼠小僧に蔵破りされた役人で負債は彼の借金になっている。そんな制度で金庫番をする人などいたのだろうか。法善寺でお百度踏む伏見のショットがあるが、、大勢で踏んでいる光景が珍しい。

対面するふたりの静止画を九十度ドリーで周るショットはほとんど『マトリックス』みたいなCGの感覚がすでにある。太鼓叩くショットが延々インサートされるのはエイゼンシュタインに類似している。伊藤印の御用提灯が闇でうごめくショットは艶めかしく、縦構図で川に飛び込む伏見直江のショットは収束に相応しい鮮やかさ。

61分尺での鑑賞。オリジナルは100分で山本禮三郎殺害の件などが失われているらしいが、それでもサイレントの伊藤大輔作品を通して鑑賞できるのは本作が唯一であるらしい貴重品。

(評価:★5)

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