コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 巨人伝(1938/日)

画期的なほど無茶苦茶な収束で、冒頭に名作の映画化なんて弱った、みたいな断り書きが入り、何のことかと思っていたが、この収束のことなんだろう。云いたいことの云えない時代の洒落のめした悲鳴なんだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







大河内伝次郎、市長が怪力みせて丸山定夫の警官に目をつけられる。丸山の鼻の孔から出て八の字に開いて唇の両端に至る口髭はギャグなんだろうか。佐渡らしき金山での金採掘の回想、鶏盗んで刑期が19年、脱出して乞食と子供らに石投げられる不条理。

寺の坊さん汐見洋の件がいい。金の燭台(原作は銀)盗まれて「よく持っていって下さった、執着を解いて下さった」。天網恢恢疎にして漏らさず、とは云わなかったが「お前を見守っている」と諭す。この原作の仏教へのアダプトはとてもいい。

原節子の少女時代は実に可愛いのだが、子役の片桐日名子が原を子供にしたみたいでさらに可愛い。だが原と佐山亮堤真佐子の三角関係は面白味がなくは地味。

そして西南戦争。印象的なのは今泉啓の五郎が立ち上がり敵を冷やかして、蜂の巣にされて死ぬ件で、戦争を冗談と思っていませんか、という警告に見える。そして丸山の警官は捕まっている。私学塾が勝つのは史実に反するが、これは何なんだろう。パラレルワールドで時代を嗤ったのだろうか。

そして収束、「戦争しかすることがなかったんです」と語られ、若い者には敵わんと大河内が茶呑んで終わる。これは一体何なんだろう。冒頭に、名作の映画化なんて弱った、みたいな断り書きが入る。何のことかと思っていたが、この収束のことなんだろうか。冒頭に国民精神総動員の文字と日の丸、という映画が伊丹の本意である訳がなく、その辺りを揶揄いとして、判る人にだけ判らせた収束なんだろう、と受け取った。何も云えない時代だったのだ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。