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[コメント] 日本の黒い夏―冤罪―(2000/日)

若手記者をニックネームで紹介する軽薄なタッチの導入に、熊井は狂ったのかと思わせるのがこの際上手い。この軽薄こそが日本のリアリズムだと映画は指摘するのだった。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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憎まれ役の配置が余りにも空々しいという気もするがこれもリアリズム、失礼なマスコミ代表の北村有起哉の憎まれ役など上手いものだ。当該事件を終盤に持ってきたのは印象が深く、冤罪事件を序盤で描写した『帝銀事件』『日本列島』『下山事件』どれも後半の演出が絞まらなかったからという反省が生かされたと見えた。散布はワゴン車からサリンの気化装置と大型扇風機を使ったと小道具で再現されていて、実に興味深かった。

子供に希望を見出す老齢監督の様はクロサワ『八月の狂詩曲』が想起される。問題は、あんな純粋で知的な女子高生が滅多にいないことだと思わされる。この娘遠野なぎこが取材の最後に語る。「幻滅しています。デスクや記者の人たちも、もっとよく判って書いたり放送しているものと思っていました」これには共感した。以前はマスコミの人って超人的に物知りだと思っていたものだ。「それが判っただけでもいいとおもうな」と最後の憎まれ口を云う北村。地方のテレビ局は殆どが契約社員だと云われていた。ここでも非正規化が進行しているのだった。

なお、彼女と一緒に取材している高校男子の目立たなさは何だったのだろう。ふたりはどういう関係だったのだろうか。これを全く説明せずに終わるのが何はすごい。

「お前が〇〇したのを見たという人がいるんだ」「その人を呼んでください」「それは規則でできない」という警察の尋問、自白強要のパターン繰り返しが恐ろしい。長野五輪へ向けての県警の面子、という冤罪発生の動機は判りやすいものだ。私は2019年に近所回りの警官に、東京五輪妨害のテロ集団が潜伏しているから通報よろしくと云われたことがある。

警察報道を疑う中井貴一の部長が、クライアントに阿った営業の平田満から青臭いぜと云われるという切り口は佐分利信の『黒い潮』が想起される。彼等の特番で犯人説覆されて不愉快な気持ちにさせられたというテレビ局への苦情電話の件が印象に残った。報道を消費する国民はそんな気分なのだろう。一度敷かれた報道の物語を覆すのは多大な労力が必要になるのだろう。覆せば視聴率に繋がるようにも思うが、そんな簡単じゃないのかも知れない。

北村和夫が善人役(弁護士)は珍しい。梅野泰靖は相変わらず、白髪の医師岩崎加根子が格好いい。憎まれ役の石橋蓮司やら平田、北村有起哉らに最後にさらっと気を遣う演出がいい。被害者の応接間は『A2』でも使われた被害者ご本人のものに見える。

(評価:★4)

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