[コメント] 連弾(2000/日)
カメラが精力的によく動く。左右にそして上下に。カメラは明白な意図を持ってパンを繰り返す。
そうかと思うと、明らかに小津安二郎もどきの静謐な固定カメラへ切り替わる。突然にだ。
さらにカメラはスーパーローアングル、セミローアングル、そして俯瞰と、これまた多彩な視点から家族を見つめる。いくら役者がコミカルな芝居をしていようとも、カメラはそのアングルによって彼等の心の中を暴き出そうとする。
また構図の凝りようも計算され尽している感がある。竹中が息子と縁側に腰掛けているシーン。恐らくは畳に這いつくばって撮ったであろうローアングルが映し出す2人の背中。この構図の左上辺は庭木が斜めに横切り、右下辺は掃除機の柄が同じく斜めにカットしている。意図的に平行四辺形にと区切られた構図。
そして監督竹中直人の一番の持ち味であろうデビュー作以来の「間」のとり方はこの作品でも健在であった。俳優はもとより芸人としての竹中直人は一瞬芸の後の絶妙の「間」で笑いをとってきた。故にコミカルな場面では当然の如くそれは機能している。だが、本作ではシリアスな場面でさえも「間」が上手く活かされていた。それを如実に見せ付けられたのが、ラストのストップモーションだろう。
アノ場面でのストップモーションには意表を付かれた。あまりにも突然にやってきたソレは、その後にあるべきシーンやら台詞を観客である我々が自ら考えねばならなかった。ベタな展開になるのか、突き放した展開になるのか?いずれにせよ今にも動き出しそうな母子ふたりの画を否応なしに見つめさせた監督の罠に我々はは見事にはまることになる。こんな感覚は『明日に向かって撃て!』のラスト以来の感覚でしょうか?
ストーリーはかなりリアルである。耳を塞ぎたくなるほどリアルでデリケートな問題を俎上に乗せている。子供を持った夫婦なら誰しもが一度は考える「親権」。それは子供から突きつけられる親の通信簿のようなものだろう。 「子供はどっちになついているか?」幸せな夫婦を演じている二人にとっての禁断のテーマである。家族にとって「近親相姦」を考えるのと同じくらい危険なテーマなのだ。
頼りない社会正義にすがろうとする健気な息子と竹中の鼻歌が、この救いのないシリアスなテーマを俎上に上げる免罪符としている。
この作品を再度鑑賞して思う。水族館のシーンなんかは笑いをかみ殺せなかった。だが、どんなに茶目っ気を入れて「ソレ」を否定しようがようが、もはやこの才能は隠し通せない。日本映画の本流の後継者たるに相応しい人物とは到底思えはしないが、もはやその実力は充分だと思う。
将来、彼の作品の分析論やらが出版されたり議論されたりする日がくるのだろうか?まあ、そんな事態は彼にとって悪夢なのかもしれないが。
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