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[コメント] メメント(2000/米)

事実はいつも時間軸の中に、真実はいつも記憶の中に……
ebi

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本来の時間軸は連続しているが、10分置きに主人公の記憶だけがリセットする。リセットした時点から過去からも未来からも繋がってない10分間だけの記憶の始まり。つまり「時間軸は連続しているが個人としての記憶はバラバラ」。

んむぅ〜、こりゃすごいアイデア! 何がすごいって、これはこれまでの映画で語られつくされた“タイムトラベル”と逆だから!

 タイムトラベルには時間軸はない。未来だろうと過去だろうとどこでもジャンプ。行った先、その時点からその時間が始まる。但し、個人としての記憶はジャンプ元からもジャンプ先からも繋がっている。「時間軸はバラバラで個人の記憶は連続している」これがタイムトラベル。

 奇しくもガイ・ピアースの最新作は『タイム・マシン』である。

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「まいるだろ? つまり次にやるべき事は分かっているのに、前にやった事は覚えていない。俺なんか、その逆で...」

 安ホテルの従業員バートは症状を説明した主人公に向かってこう言いかけた。ここに、つきつけられたメッセージを感じる。

 バートが言おうとした“その逆”とは“前にやった事は覚えているのに、次にやるべき事が分からない”という事。今この瞬間に例え、それまでの人生で一番悲しい経験をしても、後から後から積み重なっていく記憶で悲しい記憶は薄れ、やがて“恋人の死”の記憶も“電子レンジの使い方”の記憶も同じウェイトになる。そうやって我々は過去の記憶から解き放たれて次を生きていくのかもしれない。一方で、やるべき事の元となる“悲しい記憶”が薄まれば、やがて自分の存在そのものを見失う。今この瞬間の悲しみを生き埋めにする事さえ気付かず、漫然としてでしか生きられないのならば、バートと同じ様に“やるべき事が分からない次”の連続を生きるしかない。どちらが良いのだろうか? 今この瞬間が真理だと感じたのならば、主人公と同じ様にそれを入れ墨にすればよい。毎朝、目覚めた時に入れ墨を見れば、その瞬間の痛みが蘇る。毎日、薄れた分を取り戻すのだ。だが、それは同時にこの主人公と同じ業苦を背負う事になる。主人公はポツリとつぶやく。「どうすれば癒されるのか」“その瞬間の悲しみ”が癒されるなんて事はありえない。あるとすれば薄れるという事だけ。ならば、なるべく良い記憶で薄めていこう。それが記憶を重ねねば生きていけない愚かな生き物が“次にやるべき事”なのではないだろうか。

(評価:★5)

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