[コメント] 清作の妻(1965/日)
あるいは、若尾が風呂で殿山泰司の背中を流す裸体の後ろ姿(乳房が少し見えるが、これは代役だろう)のショットも、次に2人の正面ショットが繋がれる。これらは180度カメラ位置を変化させた繋ぎ(ドンデン)だ。もう少し例示を続けよう。若尾が母親−清川玉枝のいるボロ屋から連れ戻されてすぐ、殿山が風呂場で倒れている場面でもドンデンで繋がれるし、殿山の遺体の側で杉田康(殿山の息子)とその妻−穂高のり子から、早く出て行ってほしいと云われる場面もドンデンだ。以降も、田舎に帰って村八分にされる若尾を、凱旋した模範兵−田村高廣が「嫁にもらいたい」と母親−村田扶実子と妹−星川黎子に云うシーンもそう。あるいは、憲兵の成田三樹夫が馬にまたがるちょっと引いたロングショットでも、カットを割ってドンデンする。そして終盤、田村が待つ家に若尾が帰ってきてからの2人の対峙場面は、ほゞ全てのカット繋ぎが180度のカメラ位置転換で行われていたように思う。
もう一つ、頻出する特徴的な演出として、横臥のシーンをあげたい。上にも書いた死体の殿山。清川のボロ屋で、上り框に寝そべっている若尾。若尾には、田村が毎朝早く、丘の松の木に上って鐘を鳴らすが「起きんでもええ」と云ってずっと布団に入っているという描写もある。勿論、田村が若尾を初めて抱く藁の上の場面や、日露戦争に出征した田村が怪我をして一日だけ帰郷した夜の寝間の場面も忘れがたい。しかし、圧倒的な横臥の演出は、次の3つの激しいアクションシーンだろう。まずは、田村に惚れていたちょっと裕福な百姓家(内風呂のある家)の娘・お品−紺野ユカが「悔しい!」と叫んで茶碗を投げ、転げまわるのをその兄−仲村隆が蹴り始める場面。そして極めつけは、一時帰郷した田村が、五寸釘で目を刺され、血だらけになって七転八倒するシーンと、若尾が早川雄三ら村の男たちに袋叩きに合い、着物の裾が乱れて脚も露わになるシーンだ。これらは最強レベルのテンションの演出だろう。
あと、本作が若尾の代表作の最上位という意見に、私も首肯するけれど、若尾に負けず劣らず、田村の一貫した信念の強さの造型も素晴らしいと思う。それは、終盤で考えを一部改めるとしても、いずれにしても(前半はどれだけ村人から陰口をたたかれても、惚れた女と一緒になるという点で、終盤では、出征忌避のそしりに屈せず、迫害されても逃げないという点で)、周囲の圧力に屈しないで、信じた道を行く姿として描かれている。本作はとてもはっきりとした反権力映画と云っていいだろう。ラストカット、この縦構図のロングショットも、静かだが、もの凄い強度のある画面だ。また、全編で繰り返される短いフレーズの、ちょっとフランス映画みたいな劇伴もいい。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・若尾の従兄の兵助は千葉信男だ。一部サイトでは小沢昭一とされいているが、小沢昭一は出ていない。
・村長は潮万太郎。村には予備役の軍人が幾人かいて、将校級で佐々木孝丸。以下、早川雄三、小山内淳、井上大吾ら。他の村人で飛田喜佐夫や星ひかる。
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