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[コメント] 帝銀事件 死刑囚(1964/日)

アメリカ恐るべし。井上昭文の記者が素晴らしい。こんな格好いい文屋の連中は、本邦からもういなくなったのだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







導入部の実録風の禍々しさは最強。板塀に白いペンキで帝国銀行と大書してある再現からして禍々しい。私はあの白ペンキがアクマを誘い込んだような気がして仕方がない。手持ちキャメラて追いかける背中しか見せない犯人は加藤嘉だろうか(声が似ている)。そして俯瞰で撮られる茶碗一斉に傾けるストップモーションが、目を瞑らずにはいられない。「集団中毒と思われたため現状保持が十分でなかった」と語られる。

多くの独立プロ映画同様に、映画は告発を旨としており、平沢貞通は無罪という立場を全面に出している。信欣三のコルサコフ症(コルサコーシ病とも云われている)由来の演劇的な造形模写は気の毒。普賢菩薩の数え歌での供述とか。こういう狂ったような格好で告白して、印象を悪くしてしまう人々の類型というのがある。彼等は気の利いたことを云っていると思っているのだろう。世間渡るのに損している人たちだ。

731部隊を引き継いだ進駐軍の不良分子に疑いを向けている。すぐ効く青酸カリに対して、遅効性のアセトン・シアン・ヒドリンが、玉砕戦法(集団自決)のために開発されたと云われる。呑んでから突撃させる積りだったのだろう。無茶苦茶な研究で、ありがちだが、これが犯行で使われたと云われる。

731部隊の佐野浅夫と突き止める件が本作最良の件だろう。731出身者が路上の楽隊で乞食しなければならなかったのかは判らないが、兵役出身者でも、本当のことが云えない立場に特に追い込まれた人たちというのはあったのだろう。「原爆だって国際法違反じゃないか」。そしてやっと本当を語ろうとした佐野のアセトン説指示の告発を、検察は握りつぶすのであった。アメリカ恐るべし。

目撃者笹森礼子内藤武敏との結婚が、彼女の法廷証言を弱める結果を招いたのは皮肉。記者たちの公用車はなかに火鉢があるし、彼等は待合室の床で焚火をしている(!)。旗は読売の流用だろう。他社と競い合っている感じが格好いい。こんな格好いいマスコミは、もういなくなったのだろうか。再見。

(評価:★5)

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