[コメント] タイガーランド(2000/米)
私は戦地に赴いたことも軍隊勤務の経験もないので、この作品で描かれる新兵の虚無的な反抗を、甘ちゃんボーヤの幼稚なわがままだと断言することはできない(してるじゃん)。
だが、ある種の矛盾を描いたものだとは思う。自由主義的価値観のもとで育った若者は、祖国の為に命を捨てられるのか。
先の大戦で、ソ連(今ロシア)やドイツの兵隊は、侵攻し占領した街で乱暴狼藉を働いたとされる(日本兵もこれに含めておいた方が公平ではあろう)。全体主義国家では「個」が抑圧されていたからだとの解釈つきで。これは、自由主義陣営の兵士であれば、戦場でも紳士的に振舞えるものだという考え方の裏返しでもある。だが考えてみれば、自由主義なんて価値観は、どんなに遡ってもここ2〜300年に浸透したに過ぎず、その前はみんなそうしていたのだ。つまり、兵士には占領した街で略奪する権利が与えられていた。だから命を賭して戦ったのだ(言い過ぎか?)。ソ連やドイツにしても(あえて日本は含めない)昔からそうしていたことをやっただけなのだが、戦争末期のあの段階では、最終的に全体主義のせいということにされただけなのだ(言い過ぎだ)。
英米自由主義国といっても実情は似たようなもので、軍隊という規律と秩序の組織の中で、命令に従っただけという言い訳がきちんと用意されている。しかし容易に想像されるように、本質的には矛盾している。自由主義の考え方を突き詰めると、命令に従ったにせよ、やるかやらないか、自分の行動を最終的に支配するのは自分だということになる。戦地で敵を殺すのも、究極的には実家のコタツの中で(なんだそりゃ)軍隊への志願を決めた自分の責任だ。否、徴兵で赤紙に応じただけだとしても、拒否するか応じるかを決めたのは自分である。これは厳しい。
だんだん映画と関係なくなってきたが、チャーチルも言っていたように(ほんとか?)負け戦ではいっそう矛盾が噴出するのである。アメリカ合衆国にとっては「ベトナム」がこれである(お!)。30年後に作られたこの作品は、ベトナム戦争を描いたものとしては割り引いて見る必要があるかもしれない。このとおりの事が起ったかどうかはわからない。しかし、時代が下がって一層先鋭化した「今そこにある問題」を取り上げた作品だと考えることはできる。
主人公のバズ二等兵を演じるコリン・ファレルは、少し線が細い感じはするけれど、無精髭と泥だらけの顔の中から覗くクリっとした瞳が印象的で、笑うと歯並びのきれいな甘いマスクの好青年である。この映画を見て「甘ちゃんボーヤの幼稚な反抗」と感じてしまったのは、こいつのせいかもしれない。
75/100(02/02/25記)
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