コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 耳に残るは君の歌声(2000/英=仏)

冒頭は夜の海。炎が見える中、溺れかけているクリスティナ・リッチ。これはフラッシュフォワードだ。
ゑぎ

 クレジットバックは、スローモーションで唄ったり笑ったりしているお父さん−オレグ・ヤンコフスキーと幼いフィゲレ(長じてリッチにリレーする子役)が挿入される。BGMはビゼー「真珠採り」の邦題の歌。この歌(及びそのメロディ)が全編に亘って何度も流れる(お父さんが唄う子守歌みたいな歌もメロティが似ている)。なので、この邦題が付けられた、というワケだろうが、そういう説明がないと、どうにもしっくり来ないタイトルになっている。では、原題の「泣いた男」はどうだろうか。劇中泣く男性は、ジョニー・デップとお父さん−ヤンコフスキーの2人がいるので、そのどちらかということになり、これも曖昧なタイトルだが、観客によって、受け取り方の余地のある、趣きのあるタイトルと云うべきかも知れない。

 さて本作の全般的な感想を云うと、美術や撮影に見応えのある、美しい画面の映画であり、決して悪くない出来なのだが、プロット展開は序盤から終盤まで、性急過ぎる部分が多い、という感覚を持つ。序盤のロシアから英国へ渡る展開、中盤ではナチスのポーランド侵攻からパリ占領までがあっという間の出来事に感じる等、そして終盤におけるパリからNYへ至る端折り過ぎの展開。しかし、これらのプロット構成は、別の見方をすれば、簡潔かつ図太い省略であり、映画らしさ、とも云えると思う。私は決して、貶したくないとも思う。

 良いシーンを上げよう。矢張り、中盤のパリの場面が概ねいい。ジョン・タートゥーロハリー・ディーン・スタントンが出て来るオペラのシーンもそうだし、主人公のリッチが、デップおよびロマ(ジプシー)たちと関わるシーンもいい。特にデップに最初に連れて行かれるパブでのダンスシーン。とりわけ、デップが乗る白馬を含む、三騎の乗馬がパリの街中を駈ける場面。三騎を自転車で追うリッチ。これらを横移動でとらえたショット。また、ショットレベルで一番驚かされたのは、右手前に横臥したリッチのアップ、左後景に奥の部屋で同衾するケイト・ブランシェットとタトゥーロを小さく配置して、極端なパンフォーカスで収めたショットだ。

 あと、吹き替えの違和感について記述しておこう。まずは、タトゥーロの吹き替えは、彼の歌唱シーン全部、違和感のあるものだったが、ま、これは仕方がない。しかし、リッチの吹き替えはどうだろう。実は、見終わってIMDbを調べるまで、彼女の歌唱は本人の唄声なのだろうと思っており、タトゥーロと同じようにプロの吹き替えで良かったじゃないか、とも思っていたのだ。リッチがロマたちの伴奏で唄うシーンはまだしも、米国へ渡る船の中で、プロの歌手として、バンドをバックに「暗い日曜日」を唄うシーンは、いくらなんでも、というレベルの歌唱じゃないか(そもそも声量が小さすぎる)。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。