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[コメント] 結婚のすべて(1958/日)

開巻、アバンタイトルは、浜辺の小舟の中で、キスする水着姿の男女から始まる。こゝに、この映画にはこんなシーンはありません、と小林桂樹のナレーションが入る(この時点でウソなわけだが)。
ゑぎ

 キスシーンについては、本編中、何度もある(このレベルの肌の露出はないが)。続いて、タイトルインまで、当時の恋愛事情・結婚事情についての紹介パートとなる。この部分で既に、団令子柳川慶子も出てくる。そして、クレジットバックが雪村いづみの唄う主題歌で、これがとてもカッコいい歌なのだ。岡本喜八の第一回監督作は、オープニングから、彼らしいコギミ良さが溢れており、この愉しさはラストまで持続する、演出スタイルは、ほゞ完成されていると云って良い出来だ。

 ヒロインは、新珠三千代と雪村いづみの二人で姉妹役。新珠は既婚者で、夫は上原謙。上原は大学の哲学の先生だ。本作は、新珠と上原の結婚生活(大げさに云えば、その危機と再生)と、新劇女優の卵である雪村の、恋の行方、という2つのプロット展開が描かれる映画だ。

 まず、新珠を揺さぶるのが雑誌編集長の三橋達也で、彼の強烈なアタックに合い、新珠も、よろめきそうになる。新珠が夫の上原に云う科白「あなたは私の胸の呼び鈴を押してくれない」ってのがいい。これは、上原の生徒、柳川慶子と加藤春哉が家に押しかけて来たシーンで、二人が上原の家の門柱のところでキスをし、意図せず呼び鈴のボタンを押さえてしまい、ブザーが鳴り続ける場面の科白だ。ちなみに本作の上原は、スクリプト上は標準語だが、ずっと訛りのあるイントネーションで喋っており(東北弁なのか?九州っぽいときもある)、関西人の私の感覚でも、これはネイティブが聞くと変なイントネーションだろうと思ったのだが、上原の性格を補強する良い作戦(演出)だと思いながら見た。

 また、雪村の恋の相手は、上原の大学の学生で山田真二。山田は優秀な学生だがお金がないので、藤間紫のバー「パット・ブーン」でバーテンダーのアルバイトをしている。また、山田の下宿の娘が団令子だが、アバンタイトルで既に登場したのに、再登場するのは、映画が始まって50分後ぐらいだ。彼女が母親の本間文子から「不良娘が」と云われた際に「不良じゃなくてズベ公」だと自分で云うのには驚いた。団令子が、雪村と山田の間に割って入ることになる。

 さて、岡本喜八らしい演出、ということで指摘しておくと、マッチカットの多さ、切れの良さをあげるべきだろう。何かを手渡す所作をつなげたり、といった近似の運動のカッティングだが、一番驚いたのは、三橋達也の現在の契約結婚相手である、塩沢とき(登代路)の裏太ももにローラーをかけるエステティシャンから、玄関の上がりかまちに雑巾がけする新珠に繋いだカッティングだ。これは一例で、このような才気ばしった演出が、本作の時点から随所にあるのだ。いや、云い方を変えるべきか。岡本喜八は、デビュー作から生涯通じて、若々しく瑞々しい映画を作り続けた人だった、というべきだろう。

#備忘でその他の配役、友情出演者などを記述します。

・新珠と雪村の父親は小川虎之助。兄は堺左千夫で、クレジット開けは結婚式。新婦(堺の結婚相手)は上野明美。その父親に小杉義男、母親は三田照子。結婚披露宴で来賓あいさつをする沢村いき雄

・新珠のところに来る化粧品セールス員で藤木悠若水ヤエ子。上原、新珠の家の女中は河美智子。案外目立つ役。

・学生夫婦の男子の方は毒蝮三太夫(石井伊吉)だ。顔は映らないが声で分かる。

・雪村が所属する劇団の研究生仲間で山本廉中山豊のコンビ。劇団の役者の役で中丸忠雄。演出家は三船敏郎。三船の髪型がいい。

・雪村と山田の待合わせ場所は日比谷図書館。その後、神宮外苑絵画館前が映る。

・三橋の雑誌社でインタビューされているのは司葉子

・団令子の母は本間だが、父親は瀬良明

・白百合結婚相談所の所長は佐田豊。いつもより、すごい老けメイク。

・藤間のバーの客として田崎潤田中春男。田中の相手をする女給は笹るみ子

・小川の会社のやり手社員で雪村に紹介されるのは仲代達矢

・ロカビリーダンスホールで、ミッキー・カーチスが歌手として出演。映画初出演のようだ。客席には佐藤允がいる。このシーンのピアニストは中村八大か?クレジットバックの主題歌についても調べたが、タイトル等が分からなかった。歌詞のサビは「ウェディング・ロック」だったが。

(評価:★4)

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