[コメント] マルホランド・ドライブ(2001/米=仏)
リタ・ヘイワース。あの名女優。ルーベン・マムーリアンの『血と砂』であり、チャールズ・ヴィダーの『カルメン』であり『ギルダ』でありオーソン・ウェルズの元奥さんである、かのリタ・ヘイワースがほのかに一瞬スクリーンの鏡越しに映し出される。
ナオミ・ワッツ演じるリタは見事にかのリタ・ヘイワースを彷彿とさせてくれる。
女優。演じるということ。そしてその堕落。迷い。ねたみ。色々な作用がこの映画の演じる者達に乗り移る。これは奇跡としか言えない。何度でも見返すことが許される実に美しい映画。
輪廻という宗教用語が相応しいとは思わぬが、ここに尽くされるキャストは様々な形で同じ時代、同じ場所に繰り返し出現し消えて行く。そして同じ境遇を交互に体現し消えて行く。このあるまじき着想、独創性には見るものをたじろがせる力強さがある。
リンチ作品の特徴のひとつ。それは前述の通り輪廻である。繰り返すこと。そしてもうひとつは目をそむけたくなるものである。日本では今北野武が形を変えて近しい。しかしリンチのそれはかなり露骨で過激だ。オナニーシーンの凶暴性。自虐性。これらは、人の内面の奥深くに潜伏する天使と悪魔だ。その感情を呼び起こし陶酔させる技を持つ者。古くから映画を見る者にとって、かような衝撃は他で味わうことができない。
リンチタッチ。その静かなカメラの移動と、極端なクローズアップ。あの『ブルーベルベット』で、あの『ワイルド・アット・ハート』で極限まで寄るカメラの見事さ。マクロとミクロの間で揺らめく幻想。この映画でも見事に尽くされている。
劇場のシーンはこの映画の全てであり、ラストシーン、「静かに」で終わるあの劇場シーンが素晴らしい。ここにリンチの哲学が凝縮されている。我々は幻なのだ。
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