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[コメント] KT(2002/日=韓国)

これぞ隠された歴史です。日本にこんな時代があったことを知らない人が多いんでしょうね。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 最近様々な掲示板などで日韓双方がお互いのバッシングをよく見かける。それで思うのは、この二国、お互いにお互いの歴史を知らないままでいるんじゃないか?と言うこと。日本で気炎を上げてる人の多くは、韓国という国そのものをよく知らないままバッシングしてるような気がしてならない(しかし、このバッシングそのものが悪いとは思ってない。それだけ二国が精神的にも近づいてきたという事実を示すことなんだろうから)。

 実際、朴大統領治下の軍政時代はほとんどその歴史を知らされていないことが多い。一体この日本に金大中拉致事件のことを知っている人はどれだけいるんだろう?

 かくいう私も友人に在日の人とか、あるいは日韓交流などで話を聞いてなければ、韓国の歴史などはあんまり考えもしなかっただろうけど。30年前までの韓国の暮らしぶりなども聞くと、政府の秘密主義や政治的主張の危険性など、本当に大変だったそうだ。

 そんな中で起こったのがこの金大中拉致事件だった。当時はえらくニュースにもなったのだが、何せ当時はリアルでガキだったから分からなかったし、これに関しては教えてくれる人もいない。その意味では本作は大変興味深い内容だった。勿論これはフィクションだが、あの事件の裏で何が起こっていたのか、それを人間ドラマを絡めて緊張感ある作品にまとめられていた。設定においては、よくここまで複雑な物語を作り上げたものだと感心する。日本は日本で表面上自衛隊が国際政治問題に首突っ込んでいるのを発覚するのを恐れ、韓国は韓国で情報が錯綜し、決定的な命令が下せないまま。そんな中で右往左往する人達の姿が描かれている。

 ここで思うのは、緊張感のある中では、“何かを一生懸命やる”ことの大切さ。あの状況に置かれ、何の情報もないまま、何をして良いのか分からない人間が一番困っていた。一方、何も分からずとも、目の前にあることをちゃんとこなそうとしている人間は、少なくとも自分が何かをしていると言うことで、精気溢れた存在でいられた。たとえそれが間違った方向性であったとしても…

 その辺をしっかりドラマとして演出できたのは大変嬉しい所。これは平和平和と言っている日本の中で実際に起きた事件であり、平和ボケした我々の背後でこんなに精一杯生きた人間だっていたのだ。そう。この表面上の平和を守るために切り捨てられた人間もいた(かもしれない)と言うこと。そう考えると、オープニングの三島由紀夫自決ニュースはなんとも物語そのものを暗示していた訳で。

 一方、物語を詰めすぎたお陰で、説明無しに観るにはきつい作品になってしまったし、人間ドラマの方は蛇足が多かったのは残念。事件だけで充分ドラマになってるんだから、その辺は思い切ってすっぱり切るべきだったかも。部分部分では面白いのも多いんだけど、それが緊張感を緩和するのではなく物語をぶつ切りにしてしまっていた。

(評価:★4)

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