[コメント] 海の神兵(1945/日)
しかし『桃太郎の海鷲』(以降は前作と記す)が云わば全き戦争映画だったのに比べ、本作『海の神兵』は大部分が牧歌的な日本の田園風景と南洋の島の生活が描かれる作品であり、ミュージカル場面が多く採り入れられた音楽映画でもある。
本作の序盤は、犬、猿、キジに加えて熊の4匹が故郷へ一時帰郷し、家族と再会する様子が描かれる。その冒頭で、それぞれが空を見上げて飛ぶ鳥を見る仰角ショットが挿入され、これが平和を噛みしめる感情をよく伝える。序盤の中で、猿の弟・三太が川に流される事件があり、その救出シーンがプロットの核となって、本作でも猿が桃太郎以上に主人公的役割なのだろうと予想させる。また、キャラクターの会話場面や科白は極端に少なく、劇伴だけが流れるサイレントっぽい演出場面が多い。例えば、猿の兄弟が高台から富士山を見るシーン。花の綿毛が飛び、空を見上げる猿。この綿毛がいつの間にか落下傘のイメージに変わるというのが良いアイデアだが、このあたりもずっとサイレント処理だ。
落下傘イメージを転機にして、舞台は海辺にある海軍の基地に移る。こゝでは前作と異なり、多くの動物が出て来てミュージカル場面が挿入される。鹿、トラ、ヒョウ、象、サイ、リス、ヒヒ、ワニ(なぜか象とサイは擬人化されずにリアルだ。擬人化が難しいのか)。櫓の上には旭日旗。仰角ショットで飛行機の編隊飛行を映す。飛行場では前作と同じ、耳の長い犬の整備兵が沢山いる。この辺りもずっと科白なしで、音楽に合わせた動物たちの鳴き声だけでのミュージカル処理。そして着陸した飛行機から桃太郎が登場する。敬礼する犬たち。桃太郎は、胸に「隊長」と記されたワッペンをしている。
この後、犬の教師が、上記動物たちに日本語を教えるという、占領政策を模した場面があり(こゝも楽しいミュージカル場面として提示される)、次に猿たちが小銃や機関銃の手入れをするシーンになってようやく戦争映画らしくなって来る。ペリカンが物資を運んで来た場面で、猿に弟から手紙が届き、こゝでも猿は空(雲)を見る。やっぱり猿が主人公かと思わせる。また、隊長の桃太郎からは「鬼ヶ島」という科白があり、本作でも敵は「鬼」なのだと分かる。こゝで、唐突に画面外のナレーションが入り、鬼ヶ島の歴史の説明パートになる。かつて、ゴアの王様が治めていた国(島)が、西洋人に侵略されるお話。こゝも完成度の高いアニメーションだ。侵略者は南蛮人みたいなシルエット(影絵)。ナレーションでは「白人」とはっきり云う。白人の手のアップ、その手の動きも滑らかだ。
いよいよ鬼ヶ島への奇襲場面では、飛び立つ機のショットがいい。こゝにも歌が流れるが、劇場の観客たちも合唱できるように画面に歌詞の字幕が出る。前作と違って、隊長の桃太郎も飛行機の中にいる。猿たちは空挺部隊(落下傘部隊)で、その降下準備の描写なんかもとても細かく見せる。敵の対空砲が炸裂する中、降下場面は、綺麗な(抒情的な)音楽だけの無音処理だ。落下傘が沢山開くショットが美しい。そして、地上での戦闘シーンに。しかし、これが思いの外、すぐに終わってしまう。機関銃掃射や大砲による砲撃、敵のトーチカや装甲車の攻略などのシーンはそれぞれほんの数カットで見せるだけだ。敵が白旗を上げるのも早い。この後、桃太郎と敵の代表との停戦会談まで描くのには驚いた。無条件降伏を迫る桃太郎。敵は前作の「ポパイ」のブルートみたいなデザインじゃなく、普通の白人イメージで、ちゃんと英語を喋る(桃太郎は通訳なしで英語を理解できる)。しかし、皆、頭の上に一本の角があるがというのが可笑しい。ラストに北米らしい地図が出て来るというのも今見るとニヤリとさせられる(当時の観客もニヤリとしたのかも知れない)。富士山をバックに「完」と出る。
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