[コメント] シカゴ(2002/米)
日本で正統派の時代劇を作ることはとても難しいことになってしまった。現代の役者の大部分は、言葉遣いも所作も訓練を積んでいないから付け焼刃だし、それ以前にまずカツラの似合う人がいなくなってしまった。「時代劇の身体」を持っていないのだ。それは、もう何年も前に時代劇がメインストリームから外れ、作る人も観る人も一部の決まった人たちだけに限定されてしまったためだ。 ハリウッドにおけるミュージカルも、日本における時代劇と同じ道を辿っている。王道のミュージカルはもう「クラシック」という棚に並んでほこりをかぶっているようなものになってしまった。
『シカゴ』はそんなご時世に作られた王道ミュージカルだ。よくできた映画だと思う。"There is no Business BUT Showbusiness"というテーマはとても現代的で、出し物選びもバッチリだ。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』への目配せもあったり、なかなか野心的に作られている。
しかし、ミュージカルのキモとは。歌、振り付け、そしてそれ以上にいちばん重要なのは、歌って踊る生身の身体だ。そのいちばん大事な「ミュージカル身体」が、もうハリウッドにはないのだ、きっと。おそらくこの映画のキャストは、2002年現在、これ以上ない人選だったにちがいない。(実際リチャード・ギアはある種の「キャラクテール」としてこの映画にはピッタリはまっていたと思う。)でも、彼らの身体は「ミュージカル身体」じゃない。優れたミュージカルには必ず、物語も忘れるほど歌や踊りそのものに恍惚となる瞬間があるが、彼らにはその瞬間を作り出すことはできなかった。
もう、わたしたちはすばらしいミュージカル映画を観ることはできないんだろうか…
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