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[コメント] レッド・ドラゴン(2002/米)

いい脚本(MR.Dを主人公とした場合)があれば、悪い監督でもある程度面白くなるという教訓。そんなに爆破がしたけりゃ他でやれ、あんたはサスペンス映画監督失格だ。 2003年2月11日劇場鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







自分はブレッド・ラトナーが嫌いだ。爆破ばかりして、もうどうでもいいほど面白くない映画を作るからだ。『天使のくれた時間』は好きだが、後は大体面白くない作品ばかり。だから、この映画も全然期待していなかった。

「いい脚本があれば金が無くても面白い映画が作れる」とはよく言うもので、実際低予算でも、脚本が良い傑作は今まで何作も生まれてきいる。しかし、この映画の場合は「面白くない映画を撮る監督でも、ある程度面白い脚本があれば、それなりに面白い映画が作れる」という映画だった。

2時間半近い上映時間にも関わらず、退屈させずに見せきった力量は評価しよう。ラストの自宅での、犯人との攻防もなかなかスリルがあり良い。

脚本も悪くなく、「失明した女性の触った死体は別人だった!」トリックは、火サス程度とも言えるが、犯人を掘り下げて描き、主人公のFBI捜査官と、犯人との行き詰る攻防だとか、レクターとのやり取りだとか、以上に、犯人の心理面での葛藤が上手く描けていて、文句の付け所は多いが、十分良い出来であった。個人的には、これだけ掘り下げて、しかも十分テンポの良い出来になっていたのだから、犯人の過去のエピソードを描いて欲しかった。犯人の日記を読んで主人公が心を痛めていたが、過去を語られたのは、そのシーンと犯人が体を鍛えているシーンの二箇所のみ。思うに、もっと上手く描けば、犯人の凶行に至るまでと、その後の「愛」による心の変化をもっと上手く、そしてより説得力のある物に描く事ができただろう。

しかし、そこまでせずとも、良い出来栄え。ただ、気になるのは、原作を読んでいないからかもしれないが、妙にレクターの影というか、存在感が薄い。まるで話の展開を早くするためだけに存在している脇役にしか見えない。恐らく、この映画が、中途半端な出来で終わってしまったのは、監督の手腕と、レクターと犯人と主人公の、三つ巴的な心理戦がなかったせいだと思う。この作品では、結局主人公はレクターに振り回され、知恵比べなどしていない。

見ていて、思ったのが、この映画に独特の「格調」が無いということ。「品」がないとでも言おうか。サスペンス映画とは、不気味な雰囲気や、じめじめした雰囲気で観客を滅入らせる物だと、自分は思っているが、この映画はどこか、アクションか、別のサスペンス(例えば『スネーク・アイズ』だとかみたいな)の雰囲気が流れている。つまり、「猟奇殺人物」というか「異常心理犯罪物」の、そして何よりもハンニバル・レクターシリーズとしての格調の高さが存在していないのだ。

恐らくその格調の高さは、画面も関係あるだろうが、結局はどれだけ脚本が上手く緊張感ある展開を生み出しているかにもかかっていると思う。

何度も言うように、確かに文句のつけ所も多い脚本ではあるし、犯人の掘り下げは甘いし、主人公の葛藤も描ききれてはいない。しかし、それでも犯人が「愛」に苦悩しながら、自分(絵に取り付かれ、過去に取り付かれた殺人者としての)と戦い、絵と戦っている様子は素晴らしいと思う。

しかし、結局は緊張感なのだ。『羊たちの沈黙』は、レクターとクラリスの知恵比べ、そしてバッファロー・ビルとFBIの攻防と、十分な緊張感をかもし出していたからであろう。

この映画は、犯人を掘り下げて描く事は、とても素晴らしく描いているのにも関わらず、サスペンス的な興奮が低かった。

さて、脚本にケチをつけるのは、ここら辺りで控えておく。

そう、俺の嫌いなあの野郎がこの映画の監督なんだから!

自分は見る前、「監督が爆破好きだから、犯人もろとも吹っ飛ばすんじゃないのかな」とか、遊びで予想を立てていたのだが、なんだこれは!見事に吹き飛んでいるじゃないか(結果的にはダミーとわかりますが)。思わずあのシーンには笑ってしまった。

しかも、あの爆破は妙に派手に吹き飛んでいた。二段仕掛けで、爆破!そして爆風!と言わんばかりに。この映画はあくまでサスペンス、しかも誇り高き(?)ハンニバル・レクターシリーズの、悪の根源と宣伝される作品である。その映画の中で、話の展開の一部として爆破をするのなら、別にいいのだが、この人の爆破はあくまで「ここが見所だ!」と言わんばかりの爆破の仕方。おかげで、その後の家のシーンの緊迫した駆け引きが、陳腐というか、迫力がなく見えてしまった。この人はそんなに爆破を撮りたいんでしょうか?爆破を撮るのは勝手だし、撮り方の上手い、下手は自分にはよく分からない。しかし、技術的な問題ではなく、考え方の問題がそこにある。作品の内容も考えずに、これ見よがしに派手に爆破させては作品の雰囲気が一気に壊れてしまう。

あのシーンを見る瞬間まで、この映画は、犯人を掘り下げた巧みな脚本と、なかなか緊張感のある作品と思い、その後の展開によっては★4作品だと決め付けていたが、一瞬にして緊張の糸が切れ、「サスペンス映画」を置いてけぼりにしてしまった。もはや「実に残念」等と言う言葉もでない。この監督は何もわかっていない。失格だ。

そういえば、最初の現場検証の時、主人公はわざわざ一人で、しかも夜に現場を見ていた。「なんでわざわざ?」と思ったが、恐らくあれは当時の状況を考えるためだろう。そういう細部への気配りもあるのだと、関心していたら、現場の洗面台で顔を洗っている!

おい!それは『バックドラフト』でデ・ニーロが、現場でタバコ吸ってるのと同じことじゃないのか!

さらに、クライマックスでは、奥さんは妙に肌を露出していた(まぁフロリダって事で納得できなくも無いが、サスペンス映画ならこの衣装はないだろ、アホが)。

何か、いい脚本に出会えたという喜びはあるのだが、駄作を見たという失望もある不思議な映画。

ラストシーンの『羊たちの沈黙』への伏線は思わず噴出してしまったが。

しかし、レイフ・ファインズは凄い。主人公とレクター以上に、犯人と女性との恋愛話の方が緊迫感があって面白かったんだから、どれだけこの映画の脚本が良いかが伺える。

あの爆破があるまでは、一級のサスペンスに仕上がる予定だったんだろうな・・・ブレッド・ラトナーはこれから、ずっとバディムービーのアクションコメディ路線だけ作ってればいいの。そこで、また馬鹿みたいに爆破ばかり披露すれば、あんたはそれで十分食っていけるよ。

けど、お願いだから面白い脚本を無駄にしないで欲しい。

ちなみに、俺が脚本をここまで評価しているのは、犯人を主人公としてみた場合。

「レクターおじさんのお話」として見た場合は、明らかに駄作だ。レクターの存在感が薄く、そして話自体に格調の高さが伺えないからだ。

だから、「ハンニバル・レクター三部作」として評価したら★2だが、「Mr.Dのお話」としてみたら★3、総合的に★2という結果。

どうでもいいのだが、この映画のエンドロール終わったあと、なぜかユニバーサルスタジオの広告が入っていた。しかも「映画の世界に」云々描いてあった。ちょっと場違いじゃないか?

(評価:★2)

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