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[コメント] X−MEN2(2003/米=独)

冒頭からして一作目とはがらりと世界観を変えてきた。しかしながら大人のためのアメコミ映画であるところは不変。ティムバートンのバットマン以来の大人向けアメコミ映画シリーズの秀作誕生を素直に喜びたい。
ロープブレーク

**ネタバレ注意**
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一作目は、米国ユダヤ人社会の内幕暴露映画なのではないか、と書いた。 2000年時点における非戦派の好戦派に対する牽制なのではないか、と。 そして、一作目の翌年911が起こり、本作は米国がイラク開戦を強行した年に公開された。これは刮目して見なければ、と思った。

ところが、この二作目は世界観を全く変えてきた。 もはや、プロフェッサーX(= John Davison Rockefeller IV)、マグニートー(= David Rockefeller, Sr.)という関係は片鱗さえない(通常原作への批評では、プロフェッサーX(= Martin Luther King, Jr.)、マグニートー(= Malcolm X)という見方がされるのだそうですが、小生は映画版第一作では上記の見方ができるのではないかとレビューに書きました)。

しかしながら、これはまっとうにX-MENの映画化だ。アメコミの劇場版だ。荒唐無稽なシーンの連続に、うがった見方や深読みは野暮というもの。ヴェーバー流に言うならば、日々のザッヘ(雑事)に帰った、「職業としての映画」作りだ(マックス・ヴェーバーはその著作「職業としての学問」で、教師は教壇で自分の政治信条を語るべきではない、なぜなら学生は教師の言い分に耳を傾けざるをえない立場にあり、教師がその立場を利用して政治信条を語るのは卑怯な業だ、煽動したいなら辻説法で語れ、教師は価値中立なことを教えるという基本=日々のザッヘに帰れ、と説いた)。

もはや暴露できない内幕にリーチしてしまったからなのかどうかは知らないが、このブライアンシンガーの方針転換によってできた本作は、映画として私は面白いと思ってしまった。

一作目から受け継いだ、全編を貫く緊張感、これがこの映画の財産だ(音響やカメラワークなどの総合力で内容がないのに見入ってしまう、すごい技術だ)。それに大の大人が一生懸命ありえない世界を演じる、これがアメコミ映画の真骨頂だと思うからだ(ファムケヤンセンの演技はちょっとアレだけどあの年でこの役やらされてるんだからヨシとするか)。

もちろん、政治的なメッセージが表向き排除されたからといって、作り手からのメッセージを感じないのかと言えばそれは別の問題だ。 2003年のアメリカ。911の精神的な打撃、ITバブルの崩壊、ネオコンの台頭による不安、等々に対して、作り手はアメリカがアメリカらしさに立ち返ることで危機を克服しようと言っているように見える。だからこそ、ラストの米国大統領によるミュータントとの戦争回避のシーンの布石として、冒頭にリンカーンを持ってきたのだろう。他国のことが一切出てこないのも2003年のアメリカ映画らしい。

あー、自分はこういうマジに作った特撮映画が心から好きなんだな、と再認識させられた映画でした。ティムバートンのバットマンが終わってしまって以来、初めての満足できるアメコミ映画に出会えたことが、大変嬉しい。

(評価:★5)

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