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[コメント] 木曜組曲(2002/日)

はつ恋』でも魅せられたが、ここでもきっちり構成された映画を堪能できた。篠原監督の手腕に脱帽。
chokobo

何が映画の醍醐味かを考える。映画は正直言えば何でも”あり”であろう。だから映画は楽しいし、また次は、と思える。

この映画は奥行きがある。女流作家の住まいとして田舎の古い屋敷を想定している点に魅力がある。小さなトンネルとそこに滴る水、それはいかにも女性である。濡れるという感触。この映画は全般に濡れた映画。エロスをも思わせる濡れ方である。

しかしながら全く卑猥さはない。これだけの大女優を集合させ、それなりの個性をぶつけあい、そして二転三転させる、息をもつかせないストーリー展開に悪意を持つことなどありえない。全く退屈しなかった。

この映画は勿論浅丘ルリ子の存在感が象徴的に全般を満たしている。ファーストシーンの死んだ姿然り。見事な演技と存在感だ。美しさとは似て異なるこのシーンにほれぼれするのだ。

そして加藤登紀子である。この方は女優ではない。しかしこの人の演技には素人っぽさがない。風格が漂う。見事な演技。見事な演出。素晴らしい存在感。ある意味浅丘ルリ子をも凌駕する存在感。美しい。

ここには冒頭に登場する刑事役の竹中尚人を除いて男性が出演しない。前述の通り女性の臭い、女性の艶が全面を覆う映画なのである。この雰囲気こそが篠原監督の狙いであろう。この映画は女性の輪廻。女性の戯言である。井戸端会議であり執念であり、そして美しさと才能を競い合うこの他愛もないこの会話の中にこそこの映画の美しさがかいま見える。

食卓のシーン。それこそウッディ・アレンの『ハンナとその姉妹』を思わせる円卓。カメラがその周囲を不安定に回転する。冒頭お互いの会話に吸引力はないが、次第にこの映画の核心に迫る頃、このテーブルから女性達は無意識に離れ、個々の意見をぶつけあう。

男の偏見と誤解を恐れずに申し上げれば、この女性達の会話、ありようこそ日常の人間関係を象徴する。女性の会話は日本人の日常である。この才能ある日本人女性とその輪廻に思わぬ吸引力が得られる。

比較的寡黙に他の女性の動向を見守る加藤登紀子の存在そのものがこの映画を支える柱となっているのであろう。

(評価:★4)

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