[コメント] キル・ビル(2003/米=日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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久々のタランティーノ映画。前評判は上々だし、タランティーノ自身のインタビューでも自信満々に答えていた。大変期待の出来る映画であると言う感触はその時に受けた。それで公開された後の評判は…大きく二分されているようだ。あれを素晴らしい!と手放しに絶賛する人と、あれは映画になってない。と酷評する人…不思議と私の知り合いはことごとく「良い映画」と言っており、誰一人酷評してる人間がいないのは不思議だが…(交友関係、どこかで間違ってないか?俺)
いずれにせよ、期待度充分で作品に臨む。
オープニングから口の中で歓声が出そうになる。「深作欣二監督に捧ぐ」かよ!しかも、その後のタイトルバック。黒ベタ背景に白抜きの何の衒いもないキャスティングが続くのだが、これだけで魅せてくれる!普通サイズの文字が続いた後、いきなりぶっとい文字で「Sony Chiba」とは!連続でやってくれる!ここまで(特に日本人に対して)ツボのはまった演出が出来るとは。ただもんじゃないな。
それで本編だが…何というか、突っ込みどころは満載。いや、いかにも突っ込んでください的な演出がそこかしこに出てくる。しかもこれは間違いなく確信犯でやってる。様々なアクション映画、日本のアニメ、特撮、チャンバラなど何でもかんでも突っ込んでミキサーにかけた上でタランティーノ風味の味付けをしたような、そんな不思議な演出がなされている。パート毎に元ネタらしきものが見え隠れするんだが、それを見事にタランティーノの演出に変えてしまってる。
特に後半になって日本の話になってからこっそり歓声上げっぱなし。
アメリカの映画だと、日本の描写をキテレツなものとして描くことが多い。概ねこれは日本という国を誤解して描くことが多いのだと思うが、ここでのタランティーノは違う。日本への誤解を敢えて逆手にとって、わざとそうしていることがありありと分かる。これは東京ではない。トーキョーの話なのだ。 考えてみると、よくアメリカの映画を観て「日本は誤解されてる」と言う意見がよく出るものの(私自身もよく言う)、日本が輸出してる作品って、誤解を受けるようなのがあまりに多すぎるのでは無かろうか?例えばチャンバラやヤクザ映画だったら、毎回一人の侍が十数人もの敵に囲まれてそれを叩ききりながら、刃こぼれも起きない。それはあくまでフィクションという暗黙の了解があるからなされるけど、それが海外で観られていると、当然誤解の元ともなる。特に娯楽映画における日本という国はいわばパラレル・ワールドのようなものだ。タランティーノはそのパラレル・ワールドとしての日本をよく理解しているし楽しんでいる。その上で、荒唐無稽な作り物の世界を舞台に考えたのだろう。それは見事だった。ユマ=サーマン演じる主人公…(一応“ブライド”とクレジットされるが最後まで名前が分からない)彼女のコード・ネームはブラック・マンバ(世界最強と言われる毒蛇だが、古い相当にマイナーな漫画でこれと同じ名前のキャラがいた。ひょっとしてタランティーノは読んでたかも?)は単独でオーレン=イシイ(石井お恋?)に殴り込みをかけ、周りを十重二十重の武装した人間に囲まれていつつ、刀一本で立ち向かう。普通だったらデウス・エクス・マキナ(救いの手)が起こるような状態でありながら、一人でばったばったと敵をなぎ倒す(子供にはお尻ペンペンまでする凝りよう)。まさにこれ、チャンバラそのもんだろ?…強いて言えば、あの演出、そのまんま『修羅雪姫』(1973)なんだけど(『女囚さそり』(1972)と合わせて主題歌まで入ってるから、確信犯であるのは間違いなし)。刀だけでなく、足を使って水に落とすとか、チャンバラ的要素は山ほど出てくる。チャンバラとの違いは本当に敵の手足が斬られたり、血が噴き出すところだが、これがタランティーノ風味と言うべきか。
さらにイシイの幼少時代はアニメでなされているが、これも日本のアニメ会社に直接頼み込んで作ってもらったとか。わざと70年代のアニメを思わせる作りはなかなか。
とにかく、日本の、しかもあまり評価されることの少ない娯楽映画を本当に良く分かっていなければこの演出は出来ない。
あと、『パルプ・フィクション』(1994)で確立した時間軸をずらして物語を展開させる演出はこの映画でも健在。なかなか小憎らしい演出だ。
演出に関して言えば最高!な作品だが、一方、ストーリーはかなり弱いのも確か(一本の映画を二本にぶった切ったのだから仕方ないけど)。実際にこの作品をストーリーで評価するのは、続編が出てからだな。
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