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[コメント] マグダレンの祈り(2002/英=アイルランド)

And another one bite the dust.
町田

カトリック、また宗教家に拘らず、教師、看守、軍人など、他人を監視すべき立場に置かれた者が、外部からの批判を受けることなく、絶対的な権力を保有すると、往々にしてこういった悲劇は起こる。

この不条理に対して個人が採り得る選択肢は、頭を垂れて従属し続けるか、無感覚になるか、復讐を誓って支配する側に回るか、その三つくらいしかない。あとは自殺か、暗殺か、脱獄、といった非常手段しかない。

この映画は、三人の主人公と幾人かのサブキャラクター其々に、単に善悪ということでは割り切れない、複雑な性格付けをすることで、偽善臭さや、政治臭さを消すことに成功している。それだけにエンディングが、物語の「その後」を記述・羅列するだけに留まってしまったのは如何にも残念だが、良く書けた脚本であることには間違いあるまい。

演出面については非の打ちようが無い。監督・撮影監督・音楽監督・美術監督が一体となって生み出す冷ややかで陰湿な雰囲気は、物語の悲劇性・スリル・怒りなどを鋭化し、また開放によって得られる安堵感を半減させて、その傷跡が今尚、生々しく残存していることを観る者に突きつける。

冒頭、結婚式の場面に於いて、従兄弟にレイプされた娘はその被害を涙ながらに訴えるが、彼女の声は美しく愉しいアイルランド伝承音楽にかき消されてしまう。これはどんな文化にも長短があり、美点ばかり眺めていては、決定的な欠点を見逃してしまう惧れもある、という警告、と採る事も出来る。

(評価:★4)

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