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[コメント] 炎の城(1960/日)

海。船。海岸から町を走る騎馬。先君の息子(若様)・正人が明から帰郷するというニュースが城に届く。城主の大河内傳次郎は、画面手前に横臥したショットで登場する。加藤泰らしいローアングルだ。
ゑぎ

 大河内の後景には側近の薄田研二が映っている。正人が死んだ夢を見たと云う場面。本作の大河内は真正の悪人だ。帰郷した正人−大川橋蔵は、後ろ姿モノローグから振り返って登場する。

 主要人物の関係をまとめておこう。現城主の大河内は主人公−大川の叔父。先君(大川の父親)は、大川の留守中(明へ行っている間)に亡くなっており、その奥方(大川の母親)−高峰三枝子は今では大河内の妻になっている。大川には将来を誓い合った女性がおり、三田佳子。三田は薄田の娘だ。本作は、大川が偽気狂いになって父親の死の真相を究明し、仇を討つというのがメインのプロットだが、こゝに大河内の圧政に苦しむ領民の反乱(一揆)が加わって、物語は収束する。

 まず、前半の一番の見せ場は、狂言(猿楽)の場面だろう。古事記の中の、垂仁天皇の后サホヒメの一節。こゝの導入は俯瞰ショットだ。この映画、屋内の俯瞰がけっこう多い。しかし、正気でない大川が、すぐに寝転がってローアングルになる演出も面白い。あるいは大川とその腹心−黒川弥太郎、および三田と3人の会話シーンでの縦構図の見せ方にも唸る。三田が、本当に気が狂っておいでなのですか、と迫るシーン。大川と三田のショットで俯瞰から下降するカメラの演出がいい。また、このようなメロドラマ部分における伊福部昭の劇伴がたまらない効果を発揮する。

 あるいは、城内を上階(天守の方)へ上がる大川を見せるローキーの画面だとか、領民を処刑する海岸(断崖)のロングショット、海賊の島で大川と河野秋武が会話するところを長回しで撮った場面(シーンの最後に扉の向こうの海賊たちを映す)、そして海に向かって砂浜を歩く三田の足元を映したショットなど、細かな部分でも撮影の良さが感得できる映画であり、画面造型という意味での見応えは十二分にある。

 ただし、序盤から大川のモノローグの多用と説明科白には少々鬱陶しく感じさせられるところもあり、さらに、大河内との関係について高峰が薄田に告白する場面の説明科白と動きのない画面には、ちょっとテンション下がってしまった。他にも、城から逃げた大川の乗った小舟がまるで静止しているように見える造型や、正気に戻った大川が三田に会いに来る場面もイマイチだ。

 終盤の、大川と三田の兄−伊沢一郎が果し合いをする(というか、させられる)場面への話の運びも不思議な展開と思う面はあるが、これは良いアクションの見せ場を作る方便として映画的な構成でもあるだろう。この立ち合いシーンの中で、クレーンを使っていると思うのだが、二人の動きを追う長回しのカメラワークも凄い造型だ。

#備忘でその他の配役等を記述します

・先君−大川の父親は明石潮。亡霊としての出番のみ。

・農民たちを率いるのは香川良介坂東吉弥。坂東は先君の忠臣の息子。

・城内の侍の一人で汐路章。薄田の部下には後のチャンバラトリオの南方英二

(評価:★4)

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