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[コメント] ソラリス(2002/米)

どうしても捨てられないポプラ社の少年探偵シリーズ、誰にも貸したくない集英社コバルトシリーズ
不眠狂四郎

 タルコフスキーの『惑星ソラリス』のハリウッド版。かなり期待させる。本編90分という短めなところがちょっとヤバイ予感をさせたが、期待以上でも期待以下でもないそれ相当のできだった。でも昨今の不出来なハリウッドSF映画の基準からすると80点以上という高得点になる。原作とタルコフスキーの作品が本格派ならば、『ソラリス』はその廉価版、集英社コバルトシリーズ、ポプラ社の少年探偵シリーズって感じ。ストーリーが恋愛を主軸にしすぎたきらいはあるが、記憶論と存在論を根底に見据える原作のモチーフははずしていない。

 過去の記憶と自分の関係、過去の事象における記憶という名の不確かでモロ観念的な一人称的な記録が、現在の自分自身の出来事としてどこまで確信もてるだろう。過去が一般に言う時制的に過ぎてしまった取り戻せない真実として不動に君臨しているなんて不条理に思えてならない。一人称的過去の出来事と観念が自分自身の脳内に存在する実態のない電子信号である以上、過去なんてこの上なく物語にすぎない。不確かで変則的で、時にそれは意思を持ち変貌することもある、に違いない。なーんてそんな取り留めのないテーマが大好きな自分には、このハリウッド版ソラリスが評論家にとって愚作であったとしてもちょっとひいき。

 ただこの監督はおそらく俳優の演技と理論上のカットバックに頼りすぎて、ソラリスという言わば生命体としての惑星の存在を描ききれてない気がしてならない。スクリー上に映し出される映像単体としての潜在効果をもっと信用すべき。ヨーロッパ系の映画が季節や情景を心理描写として多様するように、宇宙や時空を意味付けされた映像として表現描写する手法をもっと探るべき。

ともあれプラスチッキーではあるが良質のグリコのおまけを手に入れた気分。

(評価:★4)

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