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[コメント] 春のソナタ(1990/仏)

ロメールの「四季の物語」第一作。主人公はジャンヌ。冒頭は自動車(プジョー)で移動する場面だ。最初に入ったアパートの部屋は乱雑。衣類を片付け始めるが止める。自分の必要な物だけ鞄に。また車で移動し、次に入った部屋には、見知らぬ男がいて驚く。
ゑぎ

 まずは、この冒頭のシーンの組み立てがいい。ジャンヌが最初に入ったアパートの部屋は、彼氏の部屋で、次は自分の部屋だが、従妹に部屋を貸していた(男はそのボーイフレンド)、ということが後で分かるのだ。観客としては、見ている最中、小さな謎が積算し徐々に(少し経過して)解消されるということになる。

 従妹から、もう少し部屋を貸してくれないかと頼まれたジャンヌは、その夜、パーティでナターシャという若い娘と知り合い、家に泊めてもらうことになる。こゝからがメインのプロットだ。すなわち、ジャンヌとナターシャの二人がダブルヒロイン、そこに、ナターシャの父親とその若い愛人エーヴが加わって、この4人が主要人物になっていく。

 本作の一番のチャームポイントは、ナターシャの父親の別荘に、期せずして4人が集合してしまった日の顛末だろう。食事の準備で、喫煙しながら、じゃがいもの皮剥きをするエーヴ。ナターシャと喧嘩になり、激昂したエーヴが庭へ走って行くカットと、走って戻って来るカットのロングショットには笑ってしまった。また、エーヴのことを気にくわないナターシャが、ジャンヌを父親の新しい愛人にしようと企てたのか、あるいは、ナターシャがもらうはずだった首飾りをエーヴが本当にくすねたのか、といった謎へフォーカスされるプロットの扱いも上手いものだが、やはり、ジャンヌとナターシャのお父さんが二人きりになった場面の演出はゾクゾクする面白さだ。人の心に魔が差した瞬間のスリルの造型。このシリーズで何度も繰り返されるモチーフだと思うのだが、本作のジャンヌのそれには、突出してドキドキさせられるだろう。また、屋内屋外問わず、本作が、シリーズ中、最も美しい色遣いの映画だと思う。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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