[コメント] 千年女優(2002/日)
再現・抽出された映画のワンシーンを使用してストーリーを構築するといった小手先の技巧には感心すれど、作り手の登場人物・人間・世界・歴史への視点の貧しさはどうだ。
引用の羅列によって描かれるのが少女の成長譚でしかないのが本作の限界だろう。技巧に走りベタな時系列のドラマを採択しなかったということ。それは、普通の成長ドラマをだけであってはいけないのだ、それがどんなに完成度が高くとも(まあ本作は成長ドラマとしてもレベルが高いと到底思えないのだが)。つまり、映画内時間がパラダイムに刻まれた時、観客は、そのつど客観的な視点に引き戻される、そこで何がしの認識の変容を映画は観客に与えねばならない。ドキュメンタリー製作者として登場する映画内観察者の2人の存在が生かしきれていない。主人公の成長ドラマと平行させて戦後史なり邦画史を、作中で再構築して描くだけの気概なんてありゃしない。語り口の特異さと比較しても、映画として非常に平坦で、陶酔の魔法に欠ける。
最後のセリフの不快さも、邦画や戦後への描写不足なり、愛着の薄さからの来るものだろう。もし、それらがきちんと描かれていたならば、最後に提示された女優の自己愛が、邦画なり戦後への愛着と結びついて、観客は一応の満足を得られた気がするのだが、どうだろう。
それはそれで、この映画の貧しさは、脇の登場人物達の造形の酷さなんかにも現れている。例えば、コミック・リリーフとして・物語の観察者としての、2人のドキュメンタリー制作者達は「こんな業界人いるよね」的に安っぽく創造され、くだらない型にはまった漫才を繰り広げる。
まあ、単にアイデア止まりの映画なんだな。
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