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[コメント] ザ・マジックアワー(2008/日)

これまでの三谷監督作品の中で一番面白かった。監督の、映画畑出身ではない人らしい、2歩も3歩引いたようなところから描く「映画制作の舞台裏」に寄せるつましい憧れに好感。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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監督十八番の「嘘の上塗りでどんどんのっぴきならない状況にはまっていく」展開は最高。デラ富樫の自己紹介の場面では、とうとうこらえ切れなくなったというような吹き出したような笑いが館内のあちこちから発生。他の人がウけてるっていうのが、またおかしさを増幅していってっていうのはいいもんだ。

ここでは単純なプロットで、芝居のおかしさで笑わす監督の直球勝負。過去の作品のそれぞれ、「完成された芝居の再現」だったり、「笑い<ホームドラマ」だったり、「クネクネ」「ドンキホーテ」「二枚目のかぶりもの」などの多数のアイテムでちょっと多くの保険をかけた臆病な感じっていうのはなく、監督が映画の演出に自信をつけてきたんだなあと感じる。西田敏行のアドリブ封印もその現われと思うし正解だったと思う。

しかし欲を言えば、まだ台本に頼りすぎ、という感じがしなくもなく、まだ映画ならではの方法で笑わす余地や演出方法が残っているような気もする。

例えば、繰り返されるセメント漬けのシーンなどは、1人から3人(村田、備後、会計士、別場面だったマリも並べれば4人)まで順順に人が増えていくのだが、カットが切り替わるごとに、同じアングルで人が一人づつ横に増えていくとか舞台やTVドラマではできない「間」(あるいは「省略」)でこそできる見せ方とか、備後とボスがマリを巡って会話している横で、村田がボスの子分にヤクザの仕草の指導をしているところなどは、アングルの切り方一つでその場違いな感じを面白くも面白くなくもできると思う。そのような笑いが三谷幸喜の作る笑いとは質が違うっていうことはあると思うが、開発の余地はあると思う。

マジックアワーの説明もドラマ最初のほうのは削除、もしくは、その時間帯にでくわした村田がそれに軽く気をとられるくらいにしておいて、高瀬学と村田が邂逅するシーンではじめて高瀬が説明するでいいように思う。高瀬と村田のやり取りもちょっと饒舌のようにも思う。高瀬の台詞は「(暗黒外の用心棒の)最後の表情は寒いのをガマンしたから」「もうすぐマジックアワーですね(ここでその解説)」「私はそれ(マジックアワー)を今も待っている」くらいで良かったと思う。それだけで「夢を見せる=素敵なウソ=ラストのマジックアワー」に充分繋がっていくと思うし。

エンドロールで、セットがだんだん組み上げられていく様子が映されるんだけど、どうせだったら、あれフィルムを逆回転して、ファーストシーンからだんだん何もないスタジオになっていくっていうんだったらどうだろう。最後に現われる「夢の跡」。本作を今楽しんだこと自体がマジックアワーを過ごしていたんだ、っていうことがより伝わってくるように思うのだが。…蛇足でした。

(評価:★4)

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