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[コメント] バーバー(2001/米)

床屋男
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







世の中はままならない、世界は不思議だ…。そんなテーマを好んで描く監督のまなざしは、主役にすら、なるべく第三者的に「傍から観たように」向けられる。そうすることで当事者たちの必死さは、滑稽に、やがて哀しい存在として目に映るのだ。この作品は、徹底的にそういう視点を持った人間を主人公にすえることで、従来の監督の作品で、監督自身が作品を作る時に用いてきた「傍観的な視線」というものに対するアンチテーゼになっているように思う。

その人にとって世の中とは結局その人が見たものだけである。髪の毛こそが生きていて、人はそれを頭に乗せているだけであり、UFOを見たのであれば、それは世の中にあるものなのだ。外界を遮断し、代わりに世の中からは何の見返りも求めないで生きてきた男が、ふと気まぐれに、世間に1歩踏み出そうとして始まるズレ。けったいな出来事と迎えた顛末。男は振り返る。悪い結果しか残さなかったが、ピアノの調べに惹かれたり、金持ちになる夢を見た気持ちに嘘はなかった。脛を剃毛されてふと思い出す、無意味に思えた妻との結婚生活だって、心のふれあいを感じた瞬間がなかったわけでもなかったのではないか…と。うまく言葉にできないがそれも何か意味があったことなのだろう。死んだ後の世界だったらそれがどういうことだったのか(この世にはない言葉で)説明できるかも知れない、と最後に確信するのである。男は人生の意味をつかみかけたのではないだろうか? 外の世界を見るようになったことで。

世界は意のままにならぬ方向へいつも流動しているように見える。が、内の世界にこもっていた人間が、外の世界に踏み出す、他人と係わり合いを持つ、ということでもまた世の中は変質する(『電車男』の物語のように)。「世界」は傍から観ていては見えないものもある。男は、自分の刑に立ち会うことになった人間たちのそれぞれの髪型を見た時に、髪の毛と人間の主客の位置が転換して、それがわかったのだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)らーふる当番[*]

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