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[コメント] his(2020/日)

思い返すたび「あ、あの場面とあの場面はつながっていたのかも」というささやかな演出や台詞がじわじわ効いてくる映画。脇役ひとりひとりの人生までそっとうつしだすような演出には押し付けがましさがなく、それがとてもよかった。
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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主役のふたりの心の動きが細やかなエピソードや表情などで伝わってくるのは言わずもがななのだけど。

たとえば、そらちゃんと同じようにママも書道のお稽古をつけられていたのかな、だから自分も娘にピアノを習わせていたのかな、それが愛情だと思って育ったから同じことをしたんだろうな…とか。

ママは両親の話をしていたけど結局祖母しか出てこなかったので、祖父は孫に興味ないのかな、家庭に興味なかったのかな…とか。つまりあのおばあちゃんも、孤独な子育てをしてきたのかな…とか。

子どもの好きな食事や絵本を見つけることよりも習い事や勉強をしっかり身につけさせることこそが愛情だ、という考えのママは実際にいるし、孤軍奮闘的な子育てをしていればなおのこと、そういった教育方針…将来を見据えての自立にこそ価値を見いだす…というのもあるのかもしれないよね。それはそれで立派な愛情だから。

だから私は最終的に彼らが決めたことを、これからの彼らを、そらちゃんやママのことを、丸ごと応援したいと思った。そう思わせてくれる映画だと思った。

主となるひとだけではなく、周囲の人びとの心の動きや生活も過不足なく描く映画はすべからく良作だと思うのだけど、これはまさにそんな映画だと思った。

音楽がうるさくないのもよかった。おかげで煽られることなく、静かに自分で、自分の心でスクリーンに映し出されたものを感じとることができた。

カフカの審判を読んでいたのは、後半の裁判シーンの前振り?というのはあまりに穿ち過ぎか。とはいえ絵本にも出てくる「手紙」は、しっかり劇中で機能していたね。なぜこんな、そこまで浸透もしていないようなちょっと変わった絵本を?というのも込みで。

(評価:★4)

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