コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ブラックホーク・ダウン(2001/米)

登場人物の内的葛藤などの,従来必要と思われてきた掘り下げが全くない。よりさらけ出された「戦争」或いは「戦闘」そのもの。
死ぬまでシネマ

リドリー=スコットはかなり禁欲的に主張を排除しているが,「上官が部下を死地に送り込む」という因果関係を説明するシーンで,やはり幾分かは米軍に感情移入しているように見える。仲間を助けに再び自ら火の中に飛び込んでいく兵士を礼讃しているようにも見える(冷酷な皮肉にも見えるが・・)。そこは日本人としての視点で臨むべきだと思う。

従来の戦争映画では敵は記号としてのみ描かれる。殆ど人間としての形をもたず見えない恐怖を演出する作品もあれば,それなりに眼前に現れるがただ的として殺されていくだけの映画もある。また逆に,陳腐に我彼を並置するやり方も最近は多い。敵も必ずしも悪ではない,という葛藤を生む事が目的だが,迫真味は半減する。今回の映画の恐ろしいのは,敵が激しい憎悪を持って,徹底的に自分を殺しに来ることだ。1時間半続く戦闘に間延びを感じないのは,延々と続く戦闘が終わってくれない限り,殺されてしまう恐怖からだ。これが本当の戦闘だと思う。原作のことは知らないが敵の科白や感情表現が極力排除されていて,これでいいと思う。それによっても敵は記号に成り下がっていない。敵は確かに自分を憎んでいると解るから。屍体を引きずり出し,撃ち,引き裂く。

 ・・・・・

痩せこけた日本人が突撃する映画,自爆する映画を創る余地も,まだある訳だ。

 ・・・・・

 ・・・・・

(追記) 数カ月振りにこの映画の欄に来て、みんなの review の「憎悪」の強さに作品の「力」を再認識した。前回、最後に書いた一行は不可解に思われるかも知れないが、ぼくは日本人自身が極限まで追込まれたあの戦争を、もっと誰かに突詰めて欲しいと思っている。安穏とした主張や解説が折込まれた映画ではそれは不可能だ。日本人が突撃する映画、自爆する映画、その可能性をぼくは『ブラックホーク・ダウン』に見た。

製作者が外道だとしても、ぼくは監督のリドリー=スコットがあの凄惨な映像の果てに「友情の美しさ」や「米国の正当性」を謳おうとしているとはやっぱり思えない。だからそうした解釈の下に多くの批判がなされているのを読んで非常に驚いた。それ以上に驚いたのは、戦闘のリアルさをスリラーの様に楽しんで高得点を与えている評者が存在した事だ。それはぼくにとっては映画以上のアンビリーバボーな悲劇だ。

本当はmalさんやトシさんの反応が一番人間らしいと思うけど。・・・

 ・・・・・

(さらに追記) あれからまた数ヶ月が経ったが、みんなのコメント中「アメリカのプロパガンダになっている」ことへの拒否感が強いことにあらためて驚いた。あの凄惨な映像がプロパガンダになり得るところまで閾値が上がってしまっているのか。・・みんな余りに目が肥えすぎてるよ。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。