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[コメント] ウディ・アレンの夢と犯罪(2007/米=英=仏)

ロンドンのどんよりした空気が、この映画の中心だったような気がする。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ウッディ・アレンの映画というと、いつもセリフが多くて、そのセリフの中に何か大きな意味があるのかというと決してそんなことはなくて、単純に割り切って表現されている場合の方が案外多いことに気付きます。

彼本人が出演している作品は当然のことながら、最近の作品でいうと彼が出演していない一連の作品でも、セリフの応酬が続きます。

しかも、この会話の連続は、次々と繰り広げられる興奮状態を持続するもので、早口の会話の中に作者の言いたいことを発見することは難しいんですね。それがウッディ・アレンの映画そのものなんです。

本作も含めて、彼が『さよなら、さよならハリウッド』でアメリカと決別することを決意し、『マッチポイント』でイギリスに向い、『それでも恋するバルセロナ』でスペインを舞台とし、かつてニューヨークで彼が繰り広げた会話の応酬がヨーロッパで展開されることになりました。

この映画でもユアン・マクレガー扮する冷静な兄とコリン・ファレル扮する感情的な弟との会話は、ウッディ・アレンが得意とする会話に会話を重ねる技術が見事に表現されていました。

この映画の中心にあるのは”夢”です。

この”夢”を実現させようと必死になって体裁を取り繕う性格の異なる兄弟が、最後の最後に同じ夢の舞台であるクルーザーの上でぶつかります。

クルーザーの上で展開される映画というと『太陽がいっぱい』や、そのリメイク版の『リプリー』が連想されます。このいずれの作品に共通するのが、強い日差しの太陽であり、犯罪を犯した青年の暗い内面(=嘘)を象徴する黒い船。この反比例した世界観が海の上で繰り広げられるんですね。

しかし、ウッディ・アレンはこれらの過去の名作をモチーフにしながら、ロンドンを舞台とすることで、そのどんよりした雲の感触を伝えるために、映画全体をやや暗く写しています。このどんよりした世界観がクルーザーという夢のような世界のアンチテーゼになっていて、観る側の心情を複雑にしてしまう威力を発揮しています。

日常の生活の中に埋もれてしまった普通の感情を抑制できずに”夢”を追い求めて人を殺してしまうサスペンス。それはヒッチコック的な要素への挑戦にも見受けられます。

ヒッチコックがイギリスを離れてアメリカに来たことと、ウッディ・アレンがアメリカを離れてイギリスへ向かったことは、全く意味が異なるものではなくて、時代うの趨勢を象徴する必然なのではないか、とも思わせる映画でした。

最近の彼の作品としては最高峰に値する素晴らしい作品だったと思います。

余談ですが、この映画に出てくる日本車についつい目がゆきました。日産のマーチは私が普段乗り回している車なので、その印象も強く残りましたね。

2010/03/21 恵比寿ガーデンシネマ

(評価:★5)

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