思えばヒッチコックの『北北西に進路をとれ』に出ていたマーティン・ランドーでしたが、その印象的な顔立ち、その後何と言っても『スパイ大作戦』で変装の名人、これがヒットした。『スモーク』も良かった。あのマーティン・ランドーの登場で、この映画に一気に吸い込まれた気分になった。

逆にジム・キャリーは好きな俳優ではない。下手物的な印象も強く、若くしてコメディ俳優のトップに躍り出る人は必ず個性的な役をこなしてきているが、この暑苦しい顔立ちは好みではない。

しかし、この作品のジム・キャリーは違った。冒頭のシーンから静かに、謙虚に、演じている。この映画を象徴するようなファーストシーンだ。この優しく静かな演技に心を打たれる。見事だった。

それもこれもダラボンの作品だからだ。いずれも優しい。スティーブン・キングの原作に頼る部分の多かったダラボンだが、今回は見事にキングから脱却して自分の世界観を演出しきった。

閉鎖的な街のヒーローとうり二つの記憶喪失男。そして映画館。こういう着想と現実。ハリウッドの赤狩り。最後、列車で街に戻ってくるあの群衆シーン。見事な演出。そして優しさ。また泣かされた。