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[コメント] デッドマン(1995/米)

無心で歌う”Break On Through To The Other Side”
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







●天国と地獄の結婚

ドアーズのジム・モリソンは最初のアルバムの冒頭から「Break On Through To The Other Side!」と絶叫しドラッグと爆音、儀式的パフォーマンスによる意識拡大を世界中の若者に促した。このジャームッシュ映画の主題も、ある意味では「Break On Through To The Other Side」である。ただそのフレーズは力強い8ビートロックの語感から、コミカルなシャッフルビートに刷り替わっている。そのフレーズにはフォーククルセダーズの「オラは死んじまっただ」的な腰砕け感がある。これはジャームッシュとジョニデが持ち合わせた稀有なる資質で、彼らの人気の秘訣でもある。そこにさらに、非常に肉感的な、リズムの安定を伴わないニール・ヤングの堅く歪んだギターが”狭雑物”として加わっているから、尋常でない、もはやどうにも例えようもないワン&オンリーな、強引にW・ブレイク風に表現するならば、”天国と地獄を同時に見ているような”感覚を味わわされる。

●テルザに

物語中何度も言及されるウィリアム・ブレイクは大江健三郎も信奉するという英国の神秘主義詩人/装丁家である。

ビル・ブレイクが鋼鉄の汽車に乗って訪れた北部工業地帯に属するあの町は、ウィリアム・ブレイクが毛嫌いしたというニュートンの科学主義を象徴しており、大袈裟に云ってしまえば金欲と肉欲の渦巻くソドムでありゴモラであった。

ビル・ブレイクがウィリアム・ブレイクとの類似性を帯びることになるのは、ここを追われ神秘の森へと足を踏み入れるに及んでからである。彼は「生と死」「滅亡と復活」の象徴として”誰でもない”男の導きを得神秘の森をさ迷う。

その旅路が死に向かっていると同時に生(復活)へとも向かっている、というのは他のどなたかも云われているが、正しくその通りであると思う。

映画『デッドマン』で描かれるのはジャームッシュ独自の輪廻転生の死生観であり、現世主義、物質主義に対するささやかで個人的な抵抗である。こういったテーマを扱いながらけして高踏的にも衒学的にも妄信的にもならないところがジャームッシュ映画の魅力である。

(評価:★5)

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