主人公が定まらず、焦点がぼやける。 出だしのナレーションから察するにユンゲが一応主人公らしいのだが、 特にその心の動きを追うわけでもなく、ヒトラーの最後に関わる 全ての人を追うあまり、焦点が定まらず映画に集中できない。

また、史実だから仕方ないとはいえ、登場人物の性格がはっきりせず 単純な善悪が存在しないのも観客に訴えづらいポイントだろうか。

主題もはっきりしない。監督はこの映画でなにを言いたかったのか。 「ヒトラーが意外といいやつだった」というにはやはり「総統」 としてのヒトラーを描きすぎだし、なによりも客観的すぎる。

そう、監督があえて客観的であろうとしたのかどうかわからないが、 （扱っているテーマがヒトラーだけにその可能性は低くないと思う。） あまりに客観的にとらえすぎて、私には感情移入のしどころを見出せない。

ドキュメンタリー志向といえばそうかもしれないが、ドキュメンタリーに したって、観ている者にこういう思いを抱かせよう、という意思があるものだ。 この映画にはその意思が感じられない。

あえてドラマ性を一切排除したために映画としての価値を損なっているとしか 思えない。

かといって映画のつくりは丁寧だし、ちょっぴりセットくさい地下要塞 はおいておいても役者も悪くない。

なんだかなあ、という『クレイドル・ウィル・ロック』と同じような 感想を抱くのでした。