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[コメント] 長江 愛の詩(2016/中国)

空間と時間を巻き戻すようにたどる大河の遡上という題材は、それだけでミステリアスで映画的緊張に満ちている。さらにリー・ピンビンが描き出す極上の、人間、モノ(古びた船がこんなに美しいなんて!)、都市や街並、悠久の自然の“美”のなんと魅惑的なこと。
ぽんしゅう

方丈記の冒頭の「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」を思い出した。この映画(長江図という地図詩集)は「私は終点であり源である」と結ばれる。奇しくも、この“終り”と“始まり”の名語句は対となって、事象と時空の関わりという神秘の神髄を言い当てているように思う。

若き新船長ガオ(チン・ハオ)の父が「長江図」を書き記した1989年は、あの天安門事件が起きた年だ。民主化の萌芽が力で摘みとられてから約30年。その“時の流れ”を長江の遡上に重ねたのだろう。すると、違法扱いの希少種の「稚魚」とは、その顛末からしても「民主化」の暗喩なのだろう。そして、30年前の「長江図」には記載されていなかった、大河の流れを司る巨大な三峡ダムの異形は、さしずめ急速な発展を先導した国家権力の象徴のようにみえた。

この美しい映像詩に理屈をつけて「意味」を見出そうとする無粋。野暮な詮索と知りつつ、そんなことを考えた。

(評価:★4)

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