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[コメント] スミス都へ行く(1939/米)

元議会事務局職員の夢と憂鬱(という名の余談→)
ユリノキマリ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







私は3年弱ですが、縁あって、ある市の議会事務局で速記士をしていました。

一身上の都合により退職することになり、その最後の定例会最終日、折から賛否両論闘わされていたある施設の誘致問題で大もめにもめ、「会議きょうじゅうに終わるだろうか」という状況にまで追い込まれてしまいました。

家では、さびしがりやの夫と、1歳にもならない愛娘がジリジリして帰りを待っているに違いありません。その施設は、経済波及効果と環境問題の両面から語られ、市の行方を左右するようなものだったのですが、私は当然のように、自分の家のことの方が何十倍も何百倍も気がかりでした。

夕飯もまともに食べられず、給湯室で庶務の女性からたこ焼きを2つもらってお腹をごまかし、1時間記録に出ては10分休み……を繰り返していました。こうなると、体もいいかげんしんどくなってきます。

私自身がその施設誘致についてどちらの立場をとっていたかというと、つき合いで「賛成」「反対」の両方に署名をしたという無節操さでした(市の職員が態度を大っぴらにすることは好まれていなかったし)。もうじきその町を離れることになっていたこともあり、正直「どっちでもいいから早く終わってくれ」とだけ願っていました。

そのくせ、私は心のどこかでスミス(ジェームズ・スチュアート)の出現を待望もしていました。執念の演説が、何かを動かす力になったらどんなに痛快だろうと、それを想像してみると、それだけで結構気が晴れたりするのです。

それなりに熱心な討論の末、テキトーに落ち着くところに落ち着き、その日の議会記録には後に「午後11時5△分閉会」と記されることになります。スミスさんは名前の平凡さとは裏腹に、そんじょそこらにいる人ではないと思い知らされました。少なくとも、日本のある市の議会にはいませんでした。

(評価:★5)

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