バンダム+刑務所というと真っ先に『ブルージーン・コップ』が浮かぶが、内容は至極シリアスなヒューマンドラマ。バレエで鍛えた開脚にキレのある回し蹴りなどが、年齢による限界から不可能となりつつあることを自覚したバンダムが「今回は人間ドラマをやりたい」と林檎監督に提案したのだろうか。正直バンダムにこのジャンルは無理があり、根本的にこの脚本はテンポも悪く面白くない。バンダムには似た感じで『レジョネア　戦場の狼』があるが、あれもいまいちだった。

妻を殺した犯人と遭遇し、奴を追っていくバンダム。やや『逃亡者』っぽい冒頭に「バンダムが妻殺しの冤罪で投獄され、復讐のため脱獄する話なんだな」とニヤついていたのも束の間、裁判で無罪となった犯人を裁判所で撃ち殺してしまうのだから救いがない。しかも投獄された刑務所が極悪囚人に看守面々と型どおり。囚人どもにまけないためトレーニングに励み「スパルカ」なる闘技試合に出場し肉と肉をぶつけ合う姿は従来のバンダムらしさが見えたが、「闘いは嫌だ」とか言い放棄してしまうわ、気づけば独房にぶち込まれてるわで、こういったバンダムに魅力は感じない。また人間論をやたらほざく黒人が前面に出すぎた感があり、主役不在な印象も受けてしまう。“完全脱獄”なるサブタイトルから『ロックアップ』のような脱獄を期待したがあまりに呆気なかった。

新境地に挑む姿勢は俳優には必要だ。しかしすでに固定化された像を打ち砕くことは容易ではなく、特にバンダムの場合『キック・ボクサー』『ブラッドスポーツ』の闘魂ものや『ハードターゲット』のカッコつけすぎスーパーアクション、『サドンデス』の子供に優しい兄ちゃんなどによって、“良い意味での能天気なヒーロー”というイメージが絶対的となっているゆえ、いまさら真面目ドラマを演じられても滑稽に見えてしまう。バンダムは永劫にタカ派であり続けて欲しい。