[コメント] 渦(2000/カナダ)
<<マリー・ジョゼの略歴>>
当時、30歳だったマリー・ジョゼ・クローズは、20歳の頃から、本作以前にテレビ映画も含め約10本のフランスorカナダ映画に出演しながらも、ヒット作に恵まれないまま年を重ねていた。そこで、彼女が挑んだのが、本作と同年公開のハリウッド映画『バトルフィールド・アース』であった。おそらく、新境地を!との決意だったのだろうが、ハリウッド路線は、ラジー賞で作品賞、監督賞、脚本賞はじめ、ほとんど全ての俳優賞をも賞総なめした当作品で出鼻をくじかれる。彼女が英語を勉強中で流暢に話せなかったためか、登場人物中、随一の美人であるにもかかわらず、驚くほどの端役だったのが(役者としての名に傷をつけないという意味で)不幸中の幸いである。
そして、本作『渦』のマリー・ジョゼ。運命のめぐりあわせに翻弄され続ける彼女の表情には、現在の、悩める表情が画と詩になる女優、マリー・ジョゼ・クローズの片鱗を感じさせる。本作の苦悩の演技が評判を呼び、続いて、ナチスのホロコースト以前に統治国トルコによって起こされたアルバニア人大量虐殺という歴史に埋もれた事実を描いた『アララトの聖母』に出演し、虐殺の地(アララト)からカナダのトロントに移民してきたアルバニア人2世を演じる。彼女は、父親の死因と、アララト出身の画家が描いた一枚の絵の解釈に疑問を投じ、封印された歴史に挑む…。シリアスな本作への出演により、彼女の表情はいっそう磨きがかかったように思われる(英語もだいぶ上達していた)。
そして、最新作『みなさん、さようなら。』では、麻薬中毒患者を演じ、カンヌ女優賞を受賞するに至る。役柄は、癌で残り僅かの命の主人公の父親を、麻薬でハッピーな気持ちにさせる(特殊な)バイトとして、主人公に雇われた幸薄い女性。価値観の異なる登場人物との触れ合いのなかで生きがいを見出しながらも中毒に苦しむ姿を演じる。本作の彼女の目の演技は必見である。
本作以降、話題作に出演し続ける彼女とその確かな演技力に注目したい。
ところで、本作「渦」で、携帯電話を海に放り投げるマリー・ジョゼをどうか記憶の片隅にでも留めておいてほしい。
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『渦』の感想はというと、不細工魚とその低い声だけが妙にインパクトがあるのが残念といば残念。リンチ監督ほど巧みではないが、このシーンだけは、一生忘れがたい印象的な映像であるので、この監督はこの路線を貫いてほしい。今のマリー・ジョゼだったら、魚に負けないぐらいの印象的な演技ができたと思う。
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